さようなら、ジョニー“ギター”ワトソン


最期の舞台となったブルース・カフェからのドキュメント

長谷川良樹(ブルース・カフェ ・ プロデューサー)


Johnny Guitar Watson


れはまるで打ち上げ花火を見るかのような一瞬の出来事 、 そして激しく眩しい時間だった。5月17日、横浜ブルースカフェでの「ジョニー・ギタ ー・ワトソン」のライブ中の急死。

リハーサルに現れたジョニーは、CDジャケットやポスターで見るよりもシェイプアッ プされ、60才を過ぎた、その年齢を感じさせない男だった。身長のわりに外国人特有の威圧感もなく、むしろフレンドリーな印象すら与え、バックバンドのメンバー達ともアットホームにリハーサルを進めていた。ステージングも、やけにカッコ良く、ブレイクを指示するアクション一つにもプロフェッショナルさを漂わせている。そして、ギターを手にする。小振りなSGがさらに小さく映る。まるでおもちゃのように。

次の瞬間、オールド・フェンダーのアンプから耳をつんざくような強烈な音が飛び出して来た。でもそれは、レコードやCDで聞き慣れた「あの音」だ。紛れもなく本物がそこにいる。色々な雑誌やライナーに書いてあった後ろ姿の怪しさ、それも含めて。ブルースというよりも、とてつもなくファンキーなフレーズに思わず身体が乗ってしまう、軽いチェック程度のギターを弾き終え、シンセを操る、ここにもファンキーなフレーズが次々飛び出す。そしてボーカル、大音量のバックの音に全く埋もれない声量にまたまたびっくり。やはり並じゃない。

スローなナンバーのブルース・フレーズも絶品。マルチプレイヤーと呼ぶには言葉が軽々しすぎる気がする、それほどまでに奥行きのあるサウンド、これが「ジョニー・ギター・ワトソン」なんだと納得させられ、短いリハーサルが終了した。その後、楽屋から、一人ふらりと出てきて、ガラス越しにベイブリッジを眺めていた横顔が、少し淋しげに見えたのは気のせいだったのだろうか。

開演時間、客電が消えバンドメンバーが2階の楽屋から降りてくる。チューニング終了 と同時にファンキーなビートとつかみのメッセージ。待ちに待った時がやって来た、早くも客席は熱狂状態。その中をかきわけるようにジョニーの登場。もうすでに最高潮に達しているような客席。イントロから唄へと、どんどん加速して行く。そしてその時が来た。音が出なくなった。ジョニーが見当たらない。数秒後、絶叫に近い声が飛び交う、それからあまり間を空けず、「早く救急車を呼んで!」。一体何が起こったんだろう、オールスタンディングの人並みをくぐり抜け、そこで見た光景は、瞳孔を開き倒れたまま二度と帰らないジョニーだった。死因は、心筋梗塞。最期に叫んだ言葉は「I'm a Superman!」。ライブ中の死は本当にミュージシャン冥利につきるのだろうか?そんな疑問だけを残したまま時間は過ぎて行った。

「ビートやジャンル、楽器、そんなもの全く関係ないよ、音楽は面白ければいいのさ」

と言いたげに異国の地、日本で突然の死を迎えたジョニー。あなたの人生はやはりブルースそのものだったと、改めて納得させられました。その最後の貴重な時間をありがとう。あなたの魂は横浜のこの店にずっと生きながらえることだと思います。このステージに立つ全てのミュージシャンに「どんな音楽も素晴らしいよ」と語りかけるように。

心からご冥福をお祈りいたします。



※ブルース・カフェでは、8月8日に「8.8 BLUES DAY」と題して、ギタリスト塩次伸二を中心としたメンバーでジョニーの追悼ライブを行う予定。よかったら、足を運んでみてはいかがでしょうか。






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