2003年ベスト・アルバム10選
宮崎けい


Bobby Bland


B.B. King


Willie King


Robert Tillman

2003年はブルーズが世に紹介されて100年目であることを記念し、米国上院では「イヤー・オブ・ザ・ブルーズ」を宣言した。2月にはミシシッピー大学で「第1回ブルーズシンポジウム」が開かれ、私たちも東京から駆けつけた。また、この歴史的な年にちなんでドキュメンタリー映画「The Blues」が製作され、2004年には日本でも公開される予定。これは、ブルーズ総集編として有名どころを網羅しており、かつ現役ミュージシャンがブルーズの「語り部」として登場するとのことで、とても楽しみだ。

一方、この1年を通じて、CDの新録もの、ブルーズフェスエィバル等のイベントでの盛り上がりを期待したわりには、アメリカでも、よだれが出て尻尾を振るような企画が少なかった。そもそもビッグなブルーズマンが次々とこの世を去り、またブルーズという音楽の商業的な限界を考えるとやむを得ないことかも知れない。

そんな中で大御所ふたりが以下の新作を出したことは本当に嬉しい。

  1. BOBBY BLUE BLAND / Blues At Midnight (Malaco MCD7512)
    73歳を迎えても元気だ。ストレートなブルーズあり、バラードありで、さらに生ギターから始まるブルーズもあり。中ジャケ写真にある「The Peabody」の看板はメンフィスの老舗ホテルのもの。ボビー・ブランドはその昔このホテルの駐車場の整理係をやり、その縁でさらに綿花の輸送トラックの運転手としてミシシッピー経由でアーカンソーまで往復していた。ジャケ写真の帽子はどうもそれを言いたいらしい。ちなみに、その数年後には朝鮮戦争に従軍して日本にいたとは知らなかった。

  2. B.B. KING / Reflections (MCAB0000532-02)
    円熟したブルーズ、バラードが楽しめる。サッチモの名曲「What A Wonderful World」も入っている。上に紹介したボビー・ブランドの新作でもこの曲が採り上げられているのはおもしろい偶然。9月にミシシッピーを旅しているとき、地元の新聞に「B.B.キングが史上3番目に偉大なギタリスト」という大きな見出しを見た。ローリングストーン誌が選んだギタリストランキングの話だった。ちなみに1位はジミー・ヘンドリックス、2位はデュアン・オールマン。この記事のB.B.キングへの電話インタビューの中で、「歴代の大統領の思い出は?」との質問に、「ブッシュの親父さんにはギターをプレゼントしたし、現大統領のブッシュ夫婦はおれの音楽にあわせて踊ってるって言ってくれたよ。」「でも一番はクリントンだね、だって彼はサックスを吹いて一緒に演奏してくれたからね。」とのこと。芸は身を助ける?

  3. LITTLE JOE WASHINGTON / Houston Guitar Blues (Dialtone/P-Vine PCD-5698)
    テキサスのヒューストンに「第3区」という場所がある。「第3」などと序数詞で表示された地名自体が怪しげだが、かつてはライトニン・ホプキンス、アルバート・コリンズはじめたくさんのブルーズメンが住んでいたテキサスブルーズの震源地だ。5年前にヒューストンを訪れたとき、資料で見たこの場所に是非行ってみたくなり、ホテルからタクシーを呼んだ。運転手の思いやりが災いして、「荒れた場所ですよ・・・」と言いながらそこへは連れて行ってもらえなかった。仕方がないので近くの博物館の前で降ろしてもらい、あとは自分たちで歩いた。殺伐としながらも、廃墟のような住宅が並ぶ町並みに、かすかにライトニンの香りがしたのを覚えている。リトル・ジョー・ワシントンはその場所に1939年に生まれた「正統派」テキサスブルーズマンだ。一見浮浪者とあまり変わらない写真の風体が「第3区」そのもので「ジャケ買い」のみごとな成功例となった。

4位〜6位は2003年にアメリカで見たライブとその人の直近のCDから。

  1. WILLIE KING & THE LIBERATORS / Living In A New World (Rooster Blues ROB-CD-2647)
    まず、このCDのジャケット写真をリビング・ブルーズ誌の広告で見て興奮した。ミシシッピーのジュークジョイントで、深く落とした腰を絡ませるように踊る黒人男女。その後ろで帽子を無造作にかぶってギターを弾きながら歌っているのがウイリー・キングだ。幸運にも、冒頭で紹介したブルーズシンポでのイベントで生演奏を見た。トラディショナルでしかもノリのいいスタイルが現地の若者たちからも熱烈な支持を受けていたのが印象的だった。

  2. LITTLE MILTON / Guitar Man (Malaco MCD7513)
    次は同じくシンポのイベントに出たリトル・ミルトン。ステージではバックバンドにいまひとつ恵まれていなかったけれど、最後にやった「Blues Is Alright」の盛り上がりには満足できた。翌日のパネルディスカッションにも上記のウイリー・キングらとともにパネラーとして出席。リトル・ミルトンは日本ではあまり人気がないみたいだけれど、ミシシッピーデルタで生まれ育ち、今でもその場所を大切にしながら力強くブルーズを、そして人生を語る数少ない「リアル・ブルーズマン」だと感銘を受けた。

  3. DAVE THOMPSON / Little Dave And Big Love (Fat Posssum 80337-2)
    ファットポッサムにしては珍しい乗りのいいエレキバンドで、個人的は好きなタイプ。9月にミシシッピーのジャクソンでライブを見た。演奏はハードテンション持続型で、アルバート・キングフレーズを連発しながら最後の盛り上げはジミ・ヘン。昨年のベスト10でご紹介したジミー・キングはこのパターンでやり通して、惜しくも若くしてこの世を去った。健康に注意してがんばって!

あとはちょっと駆け足で。7位は75年のスイスのモントルー、8位は78年のシカゴでのライブ。これまでに出たものと比べて特別いいわけじゃないけど、出たこと自体が嬉しい。10位はマラコレコードを見学したときにおみやげにいただいた傘下レーベルWaldoxyからの新譜。土曜日夜のAFNラジオ(810AM)ではリトル・ミルトンの曲に続けてこんな感じの甘いソウルが聴けるよ。

  1. ALBERT KING / Blues From The Road (Fuel 2000 302 061 318 2)
  2. ALBERT KING / Talkin' Blues (Thirsty Ear 7129 2)
  3. JAMES BLOOD ULMER / Memphis Blood: The Sun Sessions (Hyena TMF9310)
  4. ROBERT TILLMAN / Still Thinking (Waldoxy WCD2834)

赤色: 新録もの

緑色: 再発もの




ベスト・ライブ





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