2004年ベスト・アルバム10選
上田有


Geraint Watkins


Dirty Dozen BB


Earl Gilliam


Washboard Chaz

★1★
  1. GERAINT WATKINS / Dial 'W' for Watkins (Bluefive Productions MSIG 0138)
    僅差でかわして1位になったのはニック・ロウの片腕として知られるピアノ/アコーディオン奏者ゲラント・ワトキンズ!知人に熱心な信者がいて私にも新作情報はいち早く入ってきました。「不当に知られていない」と言われるミュージシャンのアルバムとの出会いとしては理想的。南ウェールズ出身の現在53歳。パブロックシーンで活躍してきた彼はニック・ロウのバンドの他に、ニューオーリンズ&ケイジャンスタイルのバンド「バラム・アリゲーターズ」を率いており昨年はその旧譜も含めてたっぷりと楽しみました。さて、本作は一聴しての派手さには若干欠けるものの曲ごとに表情を変える音楽絵巻ぶりは味わうほどにカラフルでおもちゃ箱や玉手箱のを探るかのような楽しみもあります。1曲の中にも様々な要素が詰め込まれルーツミュージックのゴッタ煮状態。〜でも似た方向性を持つ アメリカのバンドと比べると明らかに異なるブリティシュの香りがたちあがってます。ブルース、ソウル、ニューオーリンズが好きで、イアン・デューリーやロニー・レインをあわせて嗜好するような人なら、涎のち失神モノの作品です。ヒネリもバッチリ。

  2. DIRTY DOZEN BRASS BAND / Funeral for a Friend (P-Vine Non-Stop/Ropeadope PVCP-8231)
    あまりの素晴しさに言葉もありません。僅差の2位となったのはプレイヤーに乗った回数のわずかな差ですね。ヘヴィローテーションを重視したので、バラエティ豊かなワトキンズが少し有利だったように思います。前作も大好きで聴きまくりましたが今作はトータルクオリティがとんでもなく高く、本物の傑作ではないでしょうか?ブラスバンドによるゴスペルアルバム、聴けば聴くほど味があり、厳かでありながら細部にはストリートのワイルドさも漂っている。明解なコンセプトアルバムの体裁をしながらもリスナーを簡単にはわかったような気にはさせない、永く楽しめる旨味たっぷりの快作だと思います。『VOO DOO』を聴いて初来日公演に駆けつけた時以来の興奮です。

  3. EARL GILLIAM / Texas Doghouse Blues (P-Vine/Dialtone PCD-5699)
    2004年、総合上位進出間違いなしですねー。はい、告白します。ワタクシこの人を知りませんでした。なので自分にとってはカンバック賞ではなくルーキーなのです…。「ダイアルトーンからのテキサス・バレルハウス・ピアノ」にひかれ試聴しました。まいりました。ひれ伏しました。一瞬にして引きずりこまれすぐにレジへ向かいました。試聴機サンキュー、タワレコさんありがとう。ああ、アメリカって広いんだなぁなどと考えてしまいました。予備知識なしでこんな人のライヴに(例えばヒューストンで)遭遇したら…なんて考えただけでクラクラする。黄金時代のマックスウエルストリートで偶然ナイトホークに!なんて夢のような事が今でもありえそうな気がしてしまう。もし来日するようなことがあれば招聘元には是非、このアルバムの匂いが伝わるよう会場のロケーションや雰囲気も重視して欲しいと思います。

  4. VARIOUS ARTISTS / 'Enjoy Every Sandwich'〜The Songs of Warren Zevon〜 (COCB-53285)
    昨年彼の遺作を選び、ジヴォンを聴くなら他の作品を!と言ったのにまたもやお薦めできない盤を選んでしまいます。素晴しいんです。仕方ないのだ。このアルバムは彼の楽曲の素晴しさを称える作品になっており、参加ミュージシャンが過剰に個性を発揮するような場面はほとんど無く自らを媒介としてジヴォンの楽曲を広く知らしめるという色が濃い。ファンには感慨深いアルバムだ。とにかく曲の良さにシビれる。再発見気分だ。「へぇDon Henleyっていいシンガーだなぁ」とか「Jackson Browneって男気ある歌だぁ」「Springsteenいい声してるな」とかファンに殴られそうな感想を持ったりしている。でも逆にそれぞれのファンがいい曲だなと思ってくれればいいなと思う。収録曲の中で出色なのがThe Wallflowers、親子で参加!のJakob Dylan最高だ。次のアルバムは買おう!続くジヴォンの息子Jordan Zevonが歌う書き残した未発表曲に涙。ジャケも好きです。方向性が明確ゆえに名盤になった好例。「Enjoy every sandwich」。

  5. THE BLOCKHEADS / Where's The Party (MSIG 0104)
    ブル−スからは遠いのですがイアン・デューリー&ブロックヘッズは特別な存在なのです。あのカリプソからパンク、ブルーズ、ジャズのゴッタ煮ファンキーミュージック。ベストメンバーで唯一度の後楽園ホールでのライヴが忘れられません(イマーノさんありがとう)。チャーリー・チャールズに続きイアンがこの世を去ってからも時おりライヴの噂が聞こえてきた彼らの再出発アルバム。冷静で正しい評価なーんてものが出来るわけはございません。2003年秋に京都磔磔の楽屋でノーマン・ワットロイが「スタジオ録音作をHP上で発売する、これからは自分も歌う」と言っていたが、そのアルバムがMSIのおかげでめでたく日本では一般流通。涙の大傑作『Mr LOVE PANTS』といい、日本はブロックヘッズ先進国なのです!内容はグルーヴィでファンキーなブリティッシュロックとでも言いましょうか。でもソレだけじゃないんだよね〜。「へぇ来日したら観たいな」なんて思ったアナタ!なにせデビューアルバムなんですから、CD買わなきゃ来日も実現しないんです。買いましょう。

  6. HOUND DOG TAYLOR / Release the Hound (P-Vine/Alligator PCD-23513)
    ほとんどの方が選ぶであろうから思い切って外してしまおうかな、とも思ったけど結局外せませんでした。やっぱりコレでしょう。し・か・し、イグロアが付いてた訳だから絶対アリゲ−タ−時代のクラブでのライヴ映像が、皆が涙流しながら失神するような映像が保存されてるはず!と、思いたい(画像レベルはともかく)。アリゲーターが倒産寸前に追い込まれでもしたら出てくるかな…。それとも意地でもひとりで楽しみ続けるか?その気持ちもわからないでもない。そんな気になるライヴ盤でした。

  7. LOS LOBOS / The Ride (Hollywood 2061-62443-2)
    気に入ってます。いやぁロスロボス大好きです。聴く前は散漫な作品だったら嫌だなぁと思ったけど杞憂に終わりました。『Colossal Head』でアノ方向(サウンドも含む)での頂点を極めた後、ともすれば過渡期的な印象があったのですが(どの作品も好きでしたが)これまでのテイストを巧く練り込んだ芳醇な型を手にいれたのではないでしょうか?ゲストも多く楽曲の共作もあるなど、決して「どうだ!」ってカンジの傑作のたたずまいではないのだけれど、だからこそ音盤の底にある揺るぎない良さが伝わってきます。うーん、これは名作です。…久しぶりにBobby Womackのライヴを観たくなりました。

  8. WASHBOARD CHAZ BLUES TRIO / dog days (Corrugated CR-002)
    イ、イナタイ!ウォッシュボードで歌うWashboard Chaz Learyが率いるブルーストリオ(笑)ってな感じで思わず頬の緩むような緩い演奏が詰まってます。緩くて少し明るくてとってもブルース。ギターにハープにウォッシュボード。アコースティックにフレッド・マクダウェルやロバート・ジョンソンの曲もやってるんだけど…当然ボードはずっと鳴り続けているし、チンチン鐘は鳴るし、で?今どきなんなんだ的作品。じゃ?どこがいいのって?全部かなぁ。歌も飄々としててなごむ。いやぁ俺ってブル−ス好きなんだなぁ〜ってシミジミ思わせてくれるのでした。タジ・マハルをサポートしていたり、昨年は『Tin Men』名義でジャグバンドスタイルのアルバムをリリースしているそうな。ニューオーリンズならでは?の掘り出し物でした。ああ、このバンドに鐘専任で入りたい。薦めてくれた識者に感謝。

  9. CAKE / Pressure Chief (SICP635)
    近年愛聴するミュージシャンで最もCDを売っているのが彼ら。だけどサクラメントのローカルバンドという雰囲気からは売れてるバンドの匂いはしないなぁ。といつも思います。アメリカ&メキシコ/ラテン・ルーツミュージックが混在する〜とかいうとロスロボスみたいだけど、そこになんちゃってテクノがまぎれこんだりもするのがミソ。ミクスチャーロックとか書かれているとなんとなく笑ってしまいます。ヒネクレ、ヨレたシンガーに腰がくだけるトランペット。全部あわさると何故かグルーヴィ。今回も、一酸化炭素が多すぎる〜と歌う「Carbon Monoxide」なんかホント、イイです。

  10. SANSONE, KROWN & FOHL (ShortStack-1005)
    ニューオーリンズ!JUMPIN' JOHNNY SANSONEのBLULLSEYE盤を入手して愛聴していたところにコレだ!それもORGAN COMBOのJOE KROWNとJOHN FOHLのトリオのブルーズアルバム。悪いワケがない。特別変わったことを演っているわけではないのだけれど。楽しめる!ジョニー・サンスン、気に入ってます。かつて時間に遅れてライヴを見逃したことが本当に悔やまれる。本作はリラックスした作りでジョー・クラウンの転がるピアノをベースに押したり引いたり、ツボを心得たプレイが気持ちいいです。お酒のお供にどうぞ。でも、なんでも有りのバンドスタイルでサンスンの新作を聴きたいなとも思う。欲張りなのだな。こうして地元に根付いたミュージシャンたちのブルース度数を味わうと改めて街の豊かさが身近に感じられたりするものです。いつかまた行きたいなー。
時点はネヴィルズ、ジョン・フォガティ。年末に押し出された形。ネヴィルズは時間を経てなかなかの愛聴盤になっていたのですが10枚に入るには強い作品でありすぎたかな?ユルサにハジカレルなんて間違ってるとは思いますが…。フォガティは選外とはいえ「Deja Vu」は(過去の曲に似てても)極私的2004年の一曲!でした。大量の新譜を入手したわけでもないのに絞るのには一苦労。ハズレが少なかったように思います。楽しんだ『Christmas Gumbo』やドクター・ジョン、驚異の臨場感にウルウルのロックウッド、2003年発売ゆえ落選のオムニバス『Blues On Blonde on Blonde』等、充実した一年でした。

赤色: 新録もの

緑色: 再発もの




ベスト・ライブ
THE WALTZ
(7月11日・東京初台The DOORS)


沖縄の、いや!この島国の誇るサイコーのリズム&ブルースバンドTHE WALTZの18年のキャリアで初となる海外?公演。自ら携わったものを選ぶのは反則かとも思いますが、やはりこれ抜きで2004年は語れません。近年フロントマンのローリーが度々沖縄から出かけるようになっても、依然として夢物語とされたワルツの海外進出。もはや理由すらわからぬ伝説…(笑)それらが解消された日、超満員のドアーズで演奏する彼らを観るのは至福の一時でした。11月には大阪バナナホールでも公演、ローリー氏から「ワルツは今年から沖縄の外でも活動を始め…」とのMCがあるなど新たな歴史の幕開けを印象付けた一年でした。既に沖縄ではミュージシャンズ・ミュージシャンと呼ばれて久しいローリー氏なのだがソロ活動にワルツ〜本領発揮は更にこれからだと強く期待したい。

わかり易そうな時こそ一筋縄ではいかない、難解そうにみえてソウルマンだったりするのだ。良く見て聴いて!手をかけさえすれば窓は開いてるさ…たぶん。是非とも、より多くの人へ!





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