2005年ベスト・アルバム10選
宮崎けい


Little Milton


Zac Harmon


Ellis Hooks


Wattstax

今年8月にリトル・ミルトンが逝去した。不覚にも!私がそれを知ったのは秋もだいぶ深まりつつある頃だった。それを聞いたとき、脱力感に襲われ、その二日後には風邪で寝込んでしまった始末である。9月以降はニュー・オーリンズのことで心を傷め続けていたとはいえ、こんな重要情報に疎くなるほどの生活をしていたことを反省しつつ、今年のこの欄はリトル・ミルトン追悼とすることをお許しいただきたい。

ミシシッピー州北西にあるグリーンヴィルはかつては綿花の積み出しで栄え、酒場と音楽でにぎわった歴史を持つ。リトル・ミルトンはそこで名を挙げ、その後もホームグラウンドとしてこの土地を愛し続けた。その街で毎年9月に開催されるブルーズフェスティバルを私が初めて訪れたとき、さすがにリトル・ミルトンがトリを務めていたのは嬉しかったし、さらに聴衆の反応から、地元での人気の根強さを感じた。

そして、一番思い出深かったのは、それから4年後の2003年にミシシッピー大学で開かれた第1回ブルーズシンポジウムでのパネラーとして、またその前夜のライブ演奏者として活躍したリトルミルトンであった。以前のベスト10でも書いたように「リアルブルーズマン」としての存在感が、そして何よりもミシシッピーデルタの誇りが感じられた。それらの魅力が、デルタの文化を体に刻み込んでいる年代はもちろんのこと、若い世代までも包み込む包容力と人気につながるのだと強く感じた。

そのグリーンヴィルに、リトル・ミルトンはじめB.B.キングも含む大御所たちが頻繁に演奏していた「フローイングファウンテン」というライブハウス(とうよりはジュークジョイント)があった。その造りは立派とはいえないが、平屋の小さな店が住宅といっしょに建ち並ぶその通りでは、ちょっとした規模の建物である。リトル・ミルトンの「Annie Mae's Cafe」はこの店が題材となっており、ちゃんと「フローイングファウンテン」の名前も歌詞に出てくる。しかし、オーナーの他界により、ついに3年前に閉店に追い込まれた。そして、今年のリトル・ミルトンの逝去へと続き、デルタにとって象徴的なものが次々と消えたことになる。

初来日は80年代前半で、確か渋谷の「ライブイン」というライブハウスだったと記憶している。キーボードで参加していたラッキー・ピーターソンの印象も鮮明であった。ところで、日本での人気はどうなのだろうか?リトル・ミルトンの演奏は、ギターファンからすると、B.B.系のちょっとトロイやつみたいで、あまりありがたさが感じられないのかもしれない。特に、ミュートしてポコペケやるやつが長く続くと「いいかげんにしろー!」となってしまうだろう。曲調も、ハードなブルーズに徹するのでもなく、さりとてソウルアーチストほど垢抜けるのでもなく・・・という感じで、ちょっとおさまりが悪いのかもしれない。

かく言うわたしも、まったくその通りであった。しかし、上にご紹介したように、失われつつあるミシシッピーデルタの伝統と誇りを体現しながら、常にパワフルに現在を生きるブルーズマンとして、いつのまにか私に大きなエネルギーを与え、支えてくれる重要な存在になっていたことに今改めて気づく。地元吉祥寺のライブハウス、「ゴールデンバット」で毎月最終土曜日に行われているブルースセッションでは、大変ありがたいことに、最後に私が彼のヒット曲「Blues Is Alright」を演奏し、参加者みんなでコーラスを大合唱するのが定番となっている。それでは来年も、'Hey, hey, the blues is alright!'・・・ということで、あとはサラッと10枚並べてみた。

  1. LITTLE MILTON / Live At Westville Prison / PCD-23704
    インディアナ州の刑務所ライブ。ラッキーピーターソンがキーボード。
  2. LITTLE MILTON / Think Of Me (Telarc Blues CD-83718)
    テラークで新境地を開こうとしたのだろうか?これが最後の作品となってしまった。
  3. B.B. KING & FRIENDS / 80 (Geffen 0602498842461)
    自宅近くのCDショップで、レスポールの90歳記念のCDの隣に置いてあったので無条件に買った。長生きして!
  4. ZAC HARMON / The Blues According to Zacariah (Blue Stone Records)
    ミシシッピー州ジャクソンで生まれ、その後、西海岸で活躍する中堅ブルーズマン。また最近ジャクソンでも出演の模様。一度ステージを見てみたい。
  5. VARIOUS ARTISTS / WATTSTAX (Warner Home Video DL-34997) [DVD]
    ブラックパワー全開!70年代の香りがプンプンする。(出演:アイザック・ヘイズ、エディー・フロイド、アルバート・キングほか)
  6. SHIRLEY BROWN & DENISE LASALLE / Divas In The Delta - Live In Greenwood, MS (Malaco MDVD 9050) [DVD]
    大御所お姉さまのカップリング。ひれ伏すのみ。
  7. MISSISSIPPI MASS CHOIR/ Not By Might, Nor Power (Malaco MDVD 9049) [DVD]
    最後に出てくる、自ら癌と向かい合う司教の姿が感動的。
  8. ELLIS HOOKS / Godson Of Soul (Evidence Music ECD-26132-2)
    アラバマ州出身で、その後米国内をヒッチハックの末、ニューヨークのセントラルパークで路上演奏していたときにダイアナ・ロスに拾われてデビュー。日本にも来た、とか?
次の2枚は厳密には2004年発売だが、特別に!
  1. Buddy Guy, Clarence 'Gatemouth' Brown and otners / Lightning In A Bottle (MHCP 532~3)
    その後DVDも出たが、映画館でも見た。その中で、ルース・ブラウンが「こんなにたくさんの仲間といっぺんに会えてうれしいわ。しかも、きょうはお葬式じゃないのよ!」と言っていたのがとても心に残った。
  2. LITTLE MILTON / The Blues Is Alrght - Live at Kalamazoo (302 066 545 2)
    リトル・ミルトンなので入れてあげて!

赤色: 新録もの

緑色: 再発もの




ベスト・ライブ





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