2006年ベスト・アルバム10選
宮崎けい


Dirty Dozen


Big George Brock


Work In Progress


Lynn White

  1. DIRTY DOZEN BRASS BAND / What's Going On (Shout! Factory 826663-10178)
  2. IRMA THOMAS / After The Rain (Rounder 11661-2186-2)
  3. BIG GEORGE BROCK / Round Two (Cat Head)
  4. THE WORK IN PROGRESS BAND / Blues Highway (Gorge)
  5. DAVID KIMBROUGH JR / Shell-Shocked (B.C. 1435)
  6. WILLIE CLAYTON / Gifted (Malaco MCD 7529)
  7. LYNN WHITE / Greatest Hits (Blues Works BLW 5055)
DVD
  1. PHILLIP WALKER / The Swingmaster Tapes vol2 / AI 82801

次々と巨星が落ちていく。巨星に続くベテランも後を追うように消えていく・・・2006年はそんな冷たい風が吹いているような年であった。また、かつては自分にとって「この世の楽園」であったニュー・オーリンズでのハリケーン災害後の復興に関して大変気の重い1年でもあった。

 そんなニュー・オーリンズのやるせなさが伝わってくる2作。マーヴィン・ゲイのヒット曲「What’s Going On」は私の大好きな曲で、2年越しでやっと自分の演奏レパートリーに入れることができたもの。それを、ダーティー・ダズンはみごとなアレンジで今の彼らの閉塞感をぶつけている。アーマ・トーマスも我が家を失いながら演奏活動を続けているそうだが、いつものセカンドライン+シンコペのノリノリとは全く異なる世界で訴えかけてくる。あらためて陶守さんのブル銀ニュー・オーリンズレポートが伝える事態の重さを感じる。

 ブルーズが生まれたミシシッピーデルタとそこに隣接する都市メンフィス。そのメンフィスには、かつてB.B.キングが名を上げたビールストリートという繁華街がある。最盛期には建ち並ぶブルーズクラブやレストランにたくさんのブラックが集まり、白人もうらやむ天国だったそうだ。その後、都市計画のあおりで廃墟同然となった後に観光用に「再建」された。バンド演奏や南部料理を提供する店がまるで標本のように並び、毎晩観光客を楽しませている。今年はそこを3回訪れたが、その度ごとに音楽状況が微妙に変わりつつあると感じた。ロックンロールとカントリーにブルーズが押され、また、ブルーズの中でも、かつての「黒人伝統バンド」の姿を見る機会が急速に減っているのだ。観光客の大半が「エルビス」を求めて押し寄せてくるのであり、またブルーズ界でも世代交代がどんどん進んでいる結果なのであろう。・・・と少々後ろ向きな話が続いたが、そのメンフィスのレコード店でフィリップ・ウォーカーのオランダでの1990年収録のライブDVDを入手した。フィリップ・ウォーカーは米国南部メキシコ湾岸を中心に活動しており、コードワークも含めてきめ細かいギタープレイを見せてくれるブルーズマンとして期待して買った。ところが、ライブとなると若干ラフではあるが、どんどんエキサイトして熱くなっていくではないか!期待していたのとは違う収穫があった。そういえば、79年の六本木ピットイン見に行ったけなー、と懐かしく思い出す。

 デルタのメッカ、ミシシッピー州クラークスデイルに「キャット・ヘッド」という店がある。ブルーズのCD、アート、民芸品などを売るかたわら、ウェブサイト(www.cathead.biz/)で音楽情報の提供も積極的に行っている。店主のロジャー・ストール氏はフレンドリーな人柄で、情報を求めるメールを出すといつも親切な返信をいただいている。そのキャット・ヘッドレーベルから出されたビッグ・ジョージ・ブロックはジュークジョイント風味を十分に感じる気持ちのいいサウンドである。

 12月に初めてアトランタを訪れた。アメリカ南部文化に関心のある私としては一度行ったみたいところであった。私の滞在中にジェームス・ブラウンがこの街で最期を迎えつつあったとは知らなかったが・・・。ブルーズ関係の話題とはあまり縁がないアトランタであるが、4日間の滞在中に2回ブルーズのライブを見ることができた。いずれも新鮮なものがあったのでベストライブとしてあげさせていただいた。カジュアルなリブ&チキンレストランでワーク・イン・プログレス・バンドをバックにボーカルのピート・ピータースン(無名?)がダウンホームなブルーズを聴かせてくれた。また、「ブラインド・ウイリー」という名門ライブハウスでは一番レーベルのルーサー・ハードロッカー・ジョンソンを見た。この人はジョニー・ウインターのバックをやったこともあるそうで、なるほど、もともと前面に出るタイプではない「奥ゆかしさ」を漂わせている。それだけにギターワークも職人肌であるが、それに加えて、どことなく人懐っこさを感じる笑顔と、クライマクスには歯でギターを弾くサービス精神もあって十分に楽しめるステージであった。

 以上のものを含め、CD、DVD、ライブ、あわせてベスト10とさせていただいた。スポーツ選手も政治家も「親父」を超えるのは難しいようであるが、ジュニア・キンブロウの息子であるダビッド・キンブロウは若い世代とミシシッピー北東部のジューク・ジョイントのノリを結ぶいいフィーリングを持っているように感じた。

 2007年はもう少し「新星」へのアンテナ感度を増すように努力したいところである。


赤色: 新録もの

緑色: 再発もの




ベスト・ライブ
  1. The Work In Progress Band
    (Fat Matty's Rib Shuk, Atlanta, GA, Dec. 15)
  2. Luther "Houserocker" Johnson
    (Blind Willie's, Atlanta, GA, Dec. 16)





inserted by FC2 system