2008年ベスト・アルバム10選
宮崎けい


Chris Thomas King


B.B. King


Soul Men


Soul of Stax

吉祥寺の自宅周辺のCDショップ店頭で、ブルーズものの「定点観測」をしている。ここ2〜3年の傾向として、「大御所」が次々と他界している一方で「人種」を超えてブルーズが新しい広がりを見せていることを強く感じる。大衆音楽としてのブルーズの持つエネルギーや可能性を頼もしく感じるとともに、「ディープなもの」の追っかけである私はますます血眼になってしまう。その「成果」を以下にご紹介したい。

  1. CHRIS THOMAS KING / Live On Beal Street (21st Century Blues 21CB-CD-2115)
    ルイジアナの州都バトン・ルージュ。ニュー・オーリンズのように華やかではないけれど、南部の香りを求めていつか行ってみたい所。その街を代表するブルーズマンであるタビー・トーマスの息子がクリス・トーマス・キングだ。
    このライブは、1997年にメンフィスで行われた「Bluestock」というブルーズイベントの中で、B.B.キングの店で収録されたものである。このイベントは、最初に入場料を払ってリストリングをはめてもらうと、あとは立ち並ぶライブハウスの入り口でそのリングを見せれば自由に出入りできる楽しいもの。筆者が2000年に訪れたときは、そのB.B.の店でアーマ・トーマスやワイルド・マグノリアスらが次々と出演し、ニュー・オーリンズがそのまま引っ越してきたような華やかさであったのを覚えている。ちなみに、現地に問い合わせたところでは、残念ながらこのイベントはもう今はやっていないそうである。
    さて、このクリス・トーマス・キングは、映画「オー・ブラザー」に出演して有名になった人でもある。エレキを持てばバリバリのモダンブルーズ、アコギに持ち替えると完璧トラディショナル、とスタイルに幅を持っている。このCDでは、"I'll Play The Blues For You"でメンフィス伝統の場所にふさわしい深い味わいを出し、そして、"Blues From Da Hood"では、ニュージェネレーションらしくラップ調のボーカルに乗せてブルーズの大先輩たちの名前を次から次へと歌い上げる。また、"L.A. Angel"では、ハープとアコギも聴かせてくれている。1964年生まれと、この業界ではまだまだ若い。伝統と新しさを兼ね備えた実力派として、これからも楽しみである。

  2. B.B. KING / One Kind of Favor (Geffen B0011791-02)
    そのB.B.キングが、83歳にしてまた新録を発表。全体としてゆったりとした貫禄を醸し出しているが、2曲目の最初の一発目の「クウィーン!」のギターはまだまだお元気。それにしても、「お墓」にまつわるブラインド・レモンの曲を1曲目に持ってきたあたり、ミシシッピー州の生まれ故郷に自らの博物館が今年完成し、もう来世が見えてしまったのだろうか?

  3. SAMUEL L. JACKSON, BERNIE MAC / Soul Men, Original Motion Picture Soundtrack (Stax STX3094502)
    メンフィスに行ったときにいつもいっしょに演奏させてもらっているバンドのキーボードのアーチーが今年の春、「映画の仕事やってんだぞー」と嬉しそうに話していた。「Soul Men」とうタイトルで、アメリカでは11月に封切となっている。主演はサミュエル・L.・ジャクソンとバーニー・マック。そしてあのアイザック・ヘイズも出演しているのだが、この映画完成前に、残念ながらバーニー・マックと相次いでこの世を去っている。
    現地でこの映画を見た人のブログを見ると、全体としては下ネタ満載のコメディーのようである。そしてこのサウンドトラックCDは、60~70年代のブラックミュージック全盛期の香りがプンプン飛び散る美味しい出来上がりとなっている。映画が待ち遠しいので、まずのこのCDで雰囲気を楽しんでおこう。ちなみに、そのアーチーは1曲目、3曲目、そして8曲目で活躍している。

  4. VARIOUS ARTISTS / The Soul Of Stax (Columbia COBY-91458) [DVD]
    その「Soul Men」の時代のブラックミュージックを作り上げていったレーベルのひとつがスタックスである。メンフィスで、もともとは映画館であった建物をスタジオとレコードショップとして使いながらヒットメーカーとして全盛を極めた。しかし、その勢いも看板スターであるオーティス・レディングの不慮の死を境に急速に下り坂へと転じ、ついに倒産へと追い込まれる。その後その建物は取り壊され、更地となった跡地を歩きながら当時の関係者が回顧するシーンがある。今では、その場所に「Stax Museum」というみごとな博物館が作られ、世界中から愛好家たちが集まってくる。
    このDVDは今年日本で発売されたものであるが、あらためてブッカー・T・ジョーンズなどの関係者たちによってスタックスの成功から凋落に至る過程、そしてブラックミュージックの歴史の上で果たした役割などが生々しく描かれている。特に印象的だったのは、人種問題が最も深刻であったであろう60年代に、あえて黒人と白人のミュージシャンをいっしょに演奏させて新しい音を作ろうとしたポリシーである。音として、またビジネスとして成功した根底には、斬新な発想と、困難さに屈しない勇気があったと感じる。その時代から約40年を経過する時間の中で、今ではごく自然な形で、冒頭に書いたような「人種を超えた広がり」が実現しているのであろう。

  5. CLARENCE DOBBINS / The Uprising (P-Vine PCD-93178)
    メンフィスをテネシー州の西の方とすれば、対する東の方はナッシュビル。ナッシュビルと言えばどうしてもカントリーミュージックの印象が強いけれど、1966年に放映された「The!!!!Beat」というテレビ番組のDVDを見ておったまげた。若さみなぎるフレディ・キング、そしてなんとそのバックバンドで楽しそうにギターを弾くゲイトマウス・ブラウン・・・リトル・ミルトンは口パクで残念だったけど、こんなテレビ番組があったとは夢のよう。そのナッシュビルをホームグラウンドとして活躍するのがこのクラレンス・ドビンズだ。「The!!!!Beat」放映のころは小学生だった計算になるが、うん、きっとお茶の間で観ていたに違いない!実にフィーリングのいいブルーズンソウルだ。

    さて、ここから先はサラっといこう。

  6. ROOT DOCTOR / Change Our Ways (Big O Records 2407)
    「ディープでファンキーな・・・」と帯に書いてあれば、条件反射的に買ってしまう。デトロイトのローカルバンドだそうだが、ハモンドも入っていて濃い音を出している。

  7. HUBERT SUMLIN / Healing Feeling (P-Vine PCD-93158)
    89年録音の国内再発である。1曲目から元気のいいヒューバート節が聴ける。7曲目の’I Don’t Want No Woman’などはシャッキリとした完璧なブラックトップサウンドで仕上がっている。

  8. DIALTONE ALL-STARS / Live! (P-Vine PCD-25083)
  9. BUDDY GUY / Skin Seep (Silvertone 88697-31629-2)
  10. VARIOUS ARTISTS / The Story Of The Pre-war Blues (P-Vine PCD-18524/7)
かくして今年も以上のCD、DVDと出会うことができて感謝。来年も是非期待したいものである。

赤色: 新録もの

紺色: 再発もの








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