2008年ベスト・アルバム10選
上田有


Al Green


Geraint Watkins


Phoebe Snow


Iguanas

なんだかあっという間に過ぎていった2008年。12月で丸3年となったバイユーゲイトでの日々に加え、遂に本格化したオキナワのソウルマン、ローリークックとの仕事の数々…。ナントカ暇無しを地でいった1年でした。新譜を積極的に聴いた中で悩みに悩んで選んだ10枚は、いつも通りバイユーゲイトでのヘヴイローテーション具合と自分の聞き込み度、そしてほんの少し『ブルース銀座』という場に配慮をして楽しんで選びました。
1位が三ツ星。残り9枚が星二つですが2位(3枚)のみ順位をつけています。

1位 ★★★
AL GREEN / Lay It Down (EMI Music Japan TOCP-70510)

2008年の一等賞がアル・グリーン??少々考え込みはしましたが、これを超えるインパクトの作品がなかったことも事実。
一聴してモロ往年のハイサウンド。「アル・グリーン、衰えないなあ」という声も聞かれましたが彼とて人間。なんらかの衰えはたとえ僅かでもある筈なのです。しかしそれをまったく感じさせない新作。今の歌声を生かして、クオリティの高い楽曲とするために作り上げられたメロディに演奏、そして音。彼の今の魅力を伝える術を十分に探り、求められるものをも真摯に探り、探り尽くした結果辿り着いたサウンドだと思います。あくまでもさりげなく。モロ往年の!という曲もその実、ささやかに練られているのです。決して安っぽい懐古趣味なんかではありません。とにかく本人もさることながらサウンドプロダクションが素晴しい。ニクイ!もうずいぶん日本にはご無沙汰の彼ですが今のアル・グリーンのステージを観てみたい!と強く思わされました。衝撃の大充実盤。これが2008年の一着です。

2位 ★★
GERAINT WATKINS / In A Bad Mood (Goldtop AU79CD001)

イギリスのキーボード&アコーディオン、そしてギター奏者でニック・ロウの片腕として知られるゲレィン・ワトキンス4年振りの新作。彼のファンなら大満足の豊潤な音楽がいっぱいに詰まっています。銀盤に封じ込められたこのイギリスぅな空気感が堪りません。アメリカンルーツミュージックに激しく傾倒しつつも自国の文化を愛しその風土に根ざした、本当の意味でのミクスチャーな音楽!それは極めてまっとうであるがゆえに一度聴いたら忘れられない個性に満ち溢れています。なんだかよくわからないミクスチャーサウンド?なるものと違い、混ざり合うってこんなにも個の匂いが立ちのぼるものなのです。普段から地味で渋いのですが、今回は更に激シブ。外ヅラの愛想のなさは驚異的ですらあります。ちょっぴり試聴、などという行為とはまったく相容れない音楽。心配になってしまうくらいの潔さです。でも素敵で楽しい音楽です。

2位 ★★
IRMA THOMAS / Simply Grand (Rounder/Decca 478 1068)

バイユーゲイト08年下半期のヘヴィローテーション盤。様々なピアニストとの共演というお題のこのアルバムは強力だった前作『After the Rain』と比べるとリラックスした地味な仕上がり。それゆえにゆるゆると楽しませてもらっていたのですが、耳に馴染んでくるとどうにも離れられなくなり、日に日に聴く頻度が増していきました。まずアタマのピアノの音に耳をグイっと摘まれ、ワンフレーズ目の歌声でいきなり胸倉を掴まれてひきずり寄せられます。なんて素敵なシンガーなのでしょう。優しくて強くて。そして可愛い。ライヴではこのオバサマがなんとも可憐に見えるのですから更に感動的です。久しぶりに来日して欲しいものです。部屋に流すだけで空気が暖かくなる充実作です。

2位 ★★
PHOEBE SNOW / Live (Verve B0011863-02)

復帰作となる素ン晴しいライヴ盤。生まれつき脳に障害のある病弱な娘さんを抱えて暮らしていた為に活動が滞りがちだったフィービ。一昨年、その愛情を注ぎ続けた娘さんを31歳で亡くし、それを越えての活動再開〜昨年7月31日に録音して10月にリリース!というなんともリアルな復活劇。突然の報に驚き喜びそして音を聴き、あっという間にウルウル状態になってしまいました。80年代私的ココロの名曲『If I Can Just Get Through Tonight』が2008年のフィービの澄んだ声で歌われるだけで、そしてあまりにも素敵なオーディエンスの反応を聞いているだけですべては ALRIGHT、なのです。わざとらしくもなく率直に正しく熱い反応をみせるこの夜のお客さんたちは最高です!他の方々が気にいるかどうかは、すいませんがよくわかりませんね。聴けば聴くほど良いです。…89年には愚かにも観逃してます。来日祈願!!

★★
THE IGUANAS / If You Should Ever Fall on Hard Times (Yep Roc YEP 2123)

大好きです。イグアナス。ショッキングなメンバーチェンジを経てようやく届いた新作、ホッと胸をなでおろしたイグアナス愛好家が何百人いることでしょう?勇んで聴いて、ウ!地味だ!!と思ったのも束の間。彼らにしか出し得ないゆるやかで豊かで、そして極めてイナタい音楽がたっぷりと記録されていてとても嬉しく感じました。やっぱり素晴しいです。バンドがしっかりと続いていくようで一安心。あまりにマイペースな再出発盤ぶりを苦笑まじりに指摘する声もありましたが。ルイジアナのザ・バンド(誇大表現失礼)に無礼なことを言ってはならないのです!

★★
JEFFERY BROUSSARD AND THE CREOLE COWBOYS / Keeping the Tradition Alive (Mason De Soul MDS-1087)

ザディコ、ケイジャン関連はMichael DoucetやCedric Watson、Lil Malcolmなどなどいろいろとあったのですが、悩んだ末にコレを。タイトル通りに?土臭い逸品。ザディコらしいザディコとでも言いましょうか。バイユーに南西ルイジアナの風と匂いを運んできてくれました。いや、ザディコって最高ですね!と思わせてくれる1枚です。

★★
JON CLEARY & THE ABSOLUTE MONSTER GENTLEMAN / Mo Hippa-Live (Buffalo BUF-510)

彼への評価を一変させてくれた強力なライヴ盤。最初、曲目にニューオーリンズ・クラシックスが並んでいるのを見て「ふーん」と思ったのでしたが〜聴いてみれば素敵なピアノにリズム。そして歌心がたっぷり!個人的には彼の地の香りをプンプン漂わせながらも、自らの異邦人としての佇まい(移住したイギリス人)をしっかりと感じさせるアレンジや空気感になんともいえない魅力を感じました。特に後半で聴かれるニューオーリンズスタイルを丁寧に咀嚼したうえで、踏み出しはみ出したピアノプレイはホント最高です。そして強烈だった来日公演!印象度では2008年、NO.1でした。

★★
ERIC LINDELL / Low On Cash, Rich In Love (Alligator ALCD4918)

ルイジアナをホームとするエリク・リンデル、ニューオーリンズ録音のアリゲーター盤。「なかなかいいなあ」から始まり、1年間聴き続けるうちに愛着度が育っていき…という正しき選出のされ方です。良い声してます。楽曲もなかなか。特に1曲目はバイユー08年の1曲、有力候補!というくらいの強い印象を残しました。次作も楽しみです。

★★
AMANDA SHAW / Pretty Runs Out (Rounder 11661-3257-2)

キュートなアマンダ。子どもと呼ぶべきか女の娘というべきか微妙な年頃ではありますがとにかく可愛い。フィドルを弾きティーンネイジャーらしく歌う。08年の前半のバイユーはこの盤でいつもとろけていました。ニューオーリンズでは既にメジャー、全米規模で売れる要素も十分にありそうな彼女。ラウンダーレコードはアマンダをスターにできるのでしょうか??オヤジどもがニコヤカに聴いていたケイジャンな愛聴盤です。

★★
B.B. KING / One Kind of Favor (Geffen B0011791-02)

迷いましたが印象も強く外せません。80歳を越えたBBの声を、レコーディング技術で飾ったりすることなく痩せた部分まで柔らかな手触りで聴かせてくれています。ギターの音も同様。これが今のB.B.キングなんだ…とジーンとするような出来です。5曲目の訥々と音を探りながら弾いているかのようなギターソロもよく聴けばこれが唸るような歌心に満ちた音の並びを残しています。音楽の蓄積が生み出したようなメロディがいっぱいです。しっかりとプロデュースされた傑作!Tボーン・バーネット、良い仕事をしました。


次点は最後まで迷ったジョー・クラウン&ウォルター"ウルフマン"ワシントン&ラッセル・バディステ。これぞナマのニューオーリンズ!というサウンドには抗えない魅力があります。ウォルターの新作も大傑作で12枚だったら間違いなくこの2枚でした。選外理由は聴いた回数です。そして昨年発売であったために外したジノ・デラフォース。ザディコでという括りなくバイユーゲイトで08年に最も流された1枚でもありました。 驚きの大傑作だったジョン・ハイアットさん、心情〜的には入れたかったローリークックの『カメジロー』は配慮、という形で席をお譲り頂きました。

赤色: 新録もの

紺色: 再発もの




ベスト・ライブ
Jon Cleary & The Absolute Monster Gentlemen
(横浜Thumbs Up, Oct. 14)
想像以上に素晴しかった!!ギッシリ満員のサムズアップのお客さんの反応も熱かった。あの演奏で燃えなきゃウソですね。とにかくバンドのクオリティが高く、コンビネーションやグルーヴィさ加減等細かいノリまで申し分なし。何度も歓声やどよめきがあがる幸せな時間。バンドで呼んだBuffalo Recordsの英断に拍手です。

番外編
吾妻光良セッション featuring ローリークック
(東京/高円寺JIROKICHI, Nov. 3)
自ら携わったものですが…吾妻さん&牧さん岡地さん&湯川さんと共にステージに立ったローリー。披露されたのはローリーズソングの数々!!いつもとほんの少し違う吾妻さんのギターも聴きモノでした。なんとも特別な夜!1度の延期を経てようやく実現したライヴは忘れられないものとなりました。





inserted by FC2 system