ブルース銀座: 2009年ベスト・アルバム10選: 陶守正寛



2009年ベスト・アルバム10選
陶守正寛
Blues Ginza


Maria Muldaur


Bobby Jones


Tommy Castro


John Nemeth

ブルース銀座を主宰しておきながら、ストレートなブルースが少ないセレクションとなってしまいました。ブルースは、ベテランが姿を消して行くのに伴って徐々に先細っているようで、淋しいですね。2009年は、スヌークス・イーグリンとエディー・ボーが相次いでなくなったのが、とてつもなくショックでした。もうニューオーリンズに行っても彼らを見れないと思うと、今でも信じられません。

一方、ジョン・フォガティーにリヴォン・ヘルム、J.J.ケイルなどベテラン・ルーツロック系の人の作品に心を奪われた1年でもありました。2010年はブルースがもっと盛り上がりますように。まだまだいい人はいるんですから。

  1. MARIA MULDAUR / Maria Muldaur & Her Garden Of Joy (Stony Plain SPCD1332)
    キャリアも半世紀近くとなって出発点だったジャグバンドに回帰しました。これまでマリアが作った古いブルースを取り上げた作品は、いかにも企画ものっぽくてあまり好きにはなれなかったけど、これはより自然な感じで心底楽しめました。やっぱり本人が楽しんでいる感じが伝わってくるのがいいですね。

  2. BOBBY JONES / Comin' Back Hard (Delta Groove DGPCD129)
    デルタグルーヴ・レーベルの秘密兵器として、マニッシュ・ボーイズのアルバムのゲストで登場した歌い手、ボビー・ジョーンズ。自己名義のアルバムがようやくでました。ルイジアナ育ち。1960〜70年代にシカゴでヴィージェイなどのレーベルにレコーディングを残したもののその後は引退状態だったようです。B.B.キングを彷彿させる深みのある歌声に、マニッシュ・ボーイズが全面バックアップ。この組み合わせは3作目とあって、相性もばっちり。濃厚なブルース・アルバムとなりました。

  3. ROBERT CRAY / This Time (Nozzle/Vanguard 79960-2)
    ブルース・カーニバルのライブの勢いにガツンと来ました。こんなに勢いのあるクレイを聴いたのは本当に久々でした。その数ヶ月後に出たこの新作は基本的にその勢いがそのまま詰まった感じで、彼の好調ぶりがガンガン伝わってきます。マイナーキーでしっとりと歌い上げる彼の持ち味は維持しつつ、委縮することなくのびのびとプレイしています。歌はもちろん、彼のギターがいい音しているのが特に印象的でした。まだ彼にこんなに底力が残っていたとは!昨年に続いて今年も4月にブルーノート公演で来日するようなので、今から楽しみです。

  4. LOS LOBOS / Los Lobos Goes Disney (Disney Sound D000174502)
    ディズニー・ファンでもないので、大好きなロスロボスがディズニーのアルバムを作ったと聞いてもピンと来ませんでしたが、聴いてみたらすっかりはまりました。彼ららしいラテン色、ロックロール色、R&B色が全体を覆い尽くしており、どこをどう聴いても完全にロスロボス・サウンド。特にラストの”星に願いを"から"イッツ・ア・スモール・ワールド"へのメドレーは、ヴェンチャーズだったり、ラバンバだったり、ノルテーニャだったりで、目からうろこでした。いやぁ、まいったなぁ。

  5. ALLEN TOUSSAINT / Live at the 2009 New Orleans Jazz & Heritage Festival (Munckmix/Buffalo MM-09AT)
    新譜「The Bright Mississippi」もよかったけど、ちょっと反則技で、2009年のジャズフェスの公式ライブ録音を選びました。というのも、ジャズフェスが40周年の節目の年だったこともあって、いつものライヴとはひと味もふた味も違う力の入った内容なのです。冒頭の"Big 40"と言う曲は、40周年を記念しての書き下ろしの新曲で、トゥーサンらしいなかなかいい曲。これ1曲だけでも充分価値ありです。他の曲も"Here Come The Girls"など普段あまりやらない曲が多く選曲されています。個人的に特に嬉しかったのは、"Sweet Touch of Love"。1976年のジャズフェスのライブ盤の演奏が知られていますが、もうライヴではやらないのかと思っていました。正式にトゥーサンの新譜としてリリースした方がいいんではと思わせる内容でした。
    http://www.jazzfestlive.com/

  6. HONEY ISLAND SWAMP BAND /Wishing Well (Oryx, no number)
    ニューオーリンズ発のルーツロック・バンド。前作のデビュー盤はミニアルバムだったので、これが初のフルアルバムとなるのでしょう。前回よりも音の幅が広がった感があります。カントリー、ブルース色を漂わせるちょっとレイドバックしたサウンドですが、R&B色も結構強いあたりはニューオーリンズならではですね。ラストの曲はクラリネットが加わり、にわかにニューオーリンズ・ジャズっぽい雰囲気も醸し出します。
    http://www.cdbaby.com/cd/honeyislandswamp2

  7. GLEN DAVID ANDREWS / Walking Through Heaven's Door (Threadhead, no number)
    ジェイムズ・アンドリューズやトロンボーン・ショーティーのいとこにあたる若きトロンボーン奏者のグレン・デイヴィッドが放ったのは、ニューオーリンズ、トレメ地区の教会におけるゴスペル・ライヴ。彼はプレイヤーではなくシンガーとして、コーラス隊、ホーン・セクションを率いています。このド迫力にすっかりやられました。このアルバムがリリースされたスレッドヘッド・レコードからは、他にもジョン・ブッテとポール・サンチェスのデュオ作品や、アレックス・マクマレー(ティンメン、元ロイヤル・フィンガーボウル)、ニューオーリンズ・ナイトクローラーズ・ブラスバンドなど面白い作品が次々リリースになっていて、今最も熱いレーベルではないかと思います。
    Threadhead Records website

  8. TOMMY CASTRO / Hard Believer (Alligator ALCD 4931)
    古巣ブラインド・ピッグからアリゲーターに移籍しましたが、この人の勢いは変わりません。力強いファンキーなサウンドは大好きです。ロックっぽいと言えなくもないですが、そういう人にありがちなギターの弾きすぎはこの人にはなく、より歌に重きを置いている感があります。オーティス・レディングを髣髴ささせるソウル・バラードのタイトル曲などはこの人の持ち味がよく出ています。節約志向の世の中を皮肉った"Trimmin' Fat"もウィットが効いてて面白かったです。「ライブハウスだって大所帯のバンドをブックするよりはカラオケの方がもうかるんだというんだ」冗談っぽく歌われていますが、現実でしょうねぇ。

  9. JOHN NEMETH / Love Me Tonight (Blind Pig BPCD 5127)
    若手ブルース・ハーピストですが、今回は前作よりもぐっとソウル色が強くなっています。これだけ歌える人も珍しいという逸材なので、そういう方向性も自然なのでしょう。ほぼ全曲オリジナルという中で、ロバート・ウォードの初期の作品"She's My Heart's Desire"のカバーが目を引きます。ウォードに負けない熱唱ぶりに加え、バンドのギタリストのウォードばりのギターもいい感じです。個人的には、この人はずっと追っていきたい一人です。

  10. LEVON HELM / Electric Dirt (Dirt Farmer 79861-2)
    一時期はもう歌えないと言っていたのに、昔から変わらぬあの声で歌ってくれるだけで嬉しいじゃありませんか。冒頭グレイトフル・デッドの"Tennessee Jed"でもうつかみOK。アメリカ南部のルーツとはかくありきと示してくれているような名作です。

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    番外編
  11. THE NORTH POLE ALLSTARS (LITTLE FEAT) / Santa Gotta Get Some(シングル)
    去年の夏、肝臓ガンのため活動休止を余儀なくされたリトル・フィートのドラマー、リッチー・ヘイワードの闘病を支援するためのチャリティー・シングルです。リトル・フィートからはポール・バレアとケン・グラッドニーの二人が参加。あとは、レオ・ノセンテリらオールスター・キャスト。とってもファンキーでかっこいいいクリスマス・ソングを聴いてリッチーを支援できるのならば、よろこんでやりたいですね。ダウンロードのみの販売です。
    http://www.littlefeat.net/index.php?page=news&n_id=648
    iTunes購入先
    http://itunes.apple.com/jp/album/santa-gotta-get-some/id346035604


赤色: 新録もの

紺色: 再発もの




ベスト・ライブ
RY COODER & NICK LOWE
(東京JCBホール; Nov. 5)

ロバート・クレイのライヴもすごくよかったんですが、新譜を選んだので、ここでは別のものを選びました。久々の来日のライ・クーダー。チケットが高くて最後まで行こうか迷っていましたが、行ってよかった。フラーコ・ヒメネスの不参加は残念でしたが、シンプルな編成で、彼もニック・ロウもいきいきと演奏しているのが印象的でした。見た目は老けたけど、音は全然老けてません!





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