ブルース銀座: 2010年ベスト・アルバム10選: チュートン



2010年ベスト・アルバム10選
チュートン


Solomon Burke


Bobby Charles


Erykah Badu


シーサーズ

この1年も様々なCDに出会うことが出来て嬉しいかぎりですが、一方で馴染みのCDショップが次々に閉店していくのが淋しくてなりません。 オン・ライン・ショップでの購入は便利ではあるけれど、店頭で実際にそれを手にした時の「あ、こんな新譜が出ていたんだ!」という嬉しさと興奮は、残念ながらPC上では味わうことは出来ないので、個人的には買えるものはなるべくお店で買いたいと思っています。
  1. SOLOMON BURKE / Nothing's Impossible (E1 Entertainment EIE-CD-2086)
    2010年の話題は何と言ってもソロモン・バークに尽きたと思います。ウィリー・ミッチェル生前最後のプロデュース作品である今作の発表、待望の初来日での素晴らしいパフォーマンス、その余韻も冷めやらない中での突然死、年末に届いた意外なコラボによる遺作まで。
    この前向きなタイトルは、くしくも彼のラスト・メッセージのようになってしまいましたが、彼のステージを観た人なら誰もが納得するものでしょうし、バラード曲を中心とした構成ですが、その説得力ある濃厚な歌声が心に沁み入ります。まだまだ生きて歌い続けてほしかったという思いでいっぱい。

  2. BOBBY CHARLES / Timeless (Rice 'N' Gravy RIC 517)
    これまた2010年に訃報を受け取り何とも悲しい思いの中発売されたものですが、かつて別のアルバムにも収録されていたファッツ・ドミノの誕生日を祝う冒頭の曲から、彼のほんわかとした歌声が今となっては妙に物悲しく感じてなりません。ゲストのドクター・ジョンやソニー・ランドレスらも特別目立った演奏をしているわけでもないのですが、その分彼の素朴な歌が際立ちとても味わい深いアルバムに仕上がっていると思います。
    名盤と言われるベアーズヴィル盤でも歌われていた"Before I Grow Too Old"を聴いて、改めて彼の最後まで揺るぎのなかった音楽性を確認してしまいました。

  3. DR. JOHN AND THE LOWER 911 / Tribal (429 Records FTN-17803)
    その亡きボビー・チャールズに捧げられたドクター・ジョンの新作。来日公演ではゴキゲンなグルーヴで魅了してくれたドクターですが、このアルバムもその来日メンバーを中心にアラン・トゥーサンやデレク・トラックスらを招き意欲的かつ聴き応えある作品に仕上げているのは流石です。
    ハリケーン・カトリーナ以降はかなりメッセージ色の強い楽曲が多いようですが、ライヴの際にも普段ほとんどMCをしない彼がわざわざ「この曲は現アメリカ政府へのプロテスト・ソングだ」というような趣旨の説明を補足した"Only In Amerika"をはじめ力作揃いですね。

  4. ROBERT RANDOLPH & THE FAMILY BAND / We Walk This Road (Warner Bros.)
    前作がジャケットも含めてかなり下世話でコマーシャルな路線に行ってしまった感を受けたものでしたが、心機一転、今回は原点に戻って、というよりは温故知新的な作りに納得の1枚でした。
    ジョン・レノンやディラン更にはプリンスの作品まで取りあげていることが話題となっていますが、そうした楽曲が全体の中で浮くことなく、トータル・アルバムとして聴き応えあるものとなっているのは、プロデューサーであるT.ボーン・バーネットの功績もあるのでしょうか?

  5. THE STEVE MILLER BAND / Bingo! (Roadrunner RRCY-29210)
    ジミー・ヴォーンのアルバム"Strange Pleasure"から刺激を受けて作られたアルバムらしく(何とそこから3曲も収録)、更にお馴染みのブルース・クラシックの数々で構成されながらも、ちょっと録音がクリアすぎて1980年代のロックっぽい感じを受けてしまい、最初はしばらくは馴染めなかったのですが、聴いているうちにだんだんスティーヴのブルースへの愛着やこだわりが伝わってきて、その余裕たっぷりな演奏と歌声が心地良く感じられるようになりました。
    今は亡きハーモニカ奏者ノートン・バッファローの生前最後の参加作品でもあるようで、長年スティーヴのサウンドに貢献した彼への追悼盤となっているのが、ファンには淋しいところですが....。ライナーノーツが泣かせます。

  6. ROBERT PLANT / Band of Joy (Rounder/Umgd 0-11661-90992-2)
    アリスン・クラウスとの前作も素晴らしかったけれど、今回もバディ・ミラーとの共同プロデュースの元、ロス・ロボスの"Angel Dance"なんて意外なカヴァーから始まるアメリカーナ路線でありながら、バーバラ・リンやタウンズ・ヴァン・ザントを歌ってもそこはかとない英国風味も感じさせるところに、70年代のロッド・ステュワート辺りにも共通するものを感じてしまいました。
    レッド・ツェッペリン再編の話を蹴ったのも頷けるくらいに充実した作品で、彼のヴォーカルは今が円熟期を迎えているのではないかと思います。このレコーディング・メンバーでのライヴを観たい!

  7. ERYKAH BADU / New Amerykah Part 2 : Return Of The Ankh (Motown B0014023-01)
    サブタイトルには彼女にとっての原点回帰の意味が込められているらしいのですが(Ankhとは、古代エジプトの言葉で、永遠の生命・再生といった意味があるとか)、今の彼女はデビューの頃を遥かにしのぐ創造力と表現力が(勿論影響力も)あるように思えます。
    ケネディ暗殺地で裸になって撃たれるPVが色々と話題を呼んだ"Window Seat"に、過激なアルバム・ジャケット、相変わらずエキセントリックな姿勢を見せながらも、中身は相当にドロドロしたものが詰まっており、それがどうしようもなく官能的で、惹きつけられてしまうのです。

  8. THE LIVING SISTERS / Love To Live
    イナラ・ジョージのニュー・プロジェクトということで興味を持って聴いてみたら、女性3人ということもあり、ほとんどアクの取れたローチェスみたいな第一印象でしたが、何とも心地よいハーモニーが全編に展開されていて、すっかり気に入ってしまいました。
    イナラ以外の二人もそれぞれキャリアを積んだ人達でソング・ライターとしてもいい曲を提供し、またナンシー・ウィルソンのヒットで知られ多くのシンガーもカヴァーしている"(You Don't Know) How Glad I Am"のような意外な選曲もあったりで、楽しめます。

  9. The DOOBIE BROTHERS / World Gone Crazy
    同期のロック史上に残る名曲を残した西海岸大物バンドが近年醜態を晒している中、それとは対照的に、第一線とは言えないまでも高いクオリティを維持したままバンドとして演奏する楽しさをステージで体現している彼らの10年ぶりの新譜。
    メンバーのやる気の表れからか予想以上に良い曲が揃い、一時はバンドを牽引したマイケル・マクドナルドもゲストに参加するなど、相変わらず屈託の無さを示す一方、旧知のテッド・テンプルマンが製作に携わっていることもあり、久々に完成度の高いアルバムになっているのが、古くからのファンとしては嬉しいところです。

  10. シーサーズ / ウタノゲンバ《シーサーズ活動の記録》 (満月)[DVD]
    1997年から長期にわたり彼女らの様々な「ウタノゲンバ」を撮影し続けてきた小林アツシ監督の労作が、昨年メンバーの宇野世志惠1回忌を機にようやく陽の目を見ることになったもの。リーダー持田明美が「こんな面白いバンドがあったのか!?」と自画自賛するのも頷けるくらいに楽しいパフォーマンスが満載です。圧巻は毎年8月に開かれる「寿町フリーコンサート」での映像で、聴衆がトランス状態になっていく中、どんどんエキサイトしていく進行ぶりは彼女らの真骨頂。そして、個人的にそんなゲンバのいくつかに立ち会えたことを幸運に思います。

以上、順不同。

オマケ
  1. DAN HICKS & THE HOT LICKS / Crazy For Christmas (Surfdog 525580)
    季節物なので一応番外ということで挙げておきますが、以前からサイトなどで告知されていたクリスマス・アルバム。彼も参加しているクリスマス・ジャグ・バンドでも既に歌われていた曲がいくつか収録されているものの、当然アレンジも変えられ、彼の加齢に比例したユルユル度も増し、何とも楽しいクリスマス・アルバムに仕上がっています。

赤色: 新録もの

紺色: 再発もの




ベスト・ライブ
CAROLE KING & JAMES TAYLOR (パシフィコ横浜, Apr. 17)
SOLOMON BURKE (Japan Blues & Soul Carnival;東京/日比谷野外音楽堂, May 29, 30)
GEOFF MULDAUR & AMOS GARRETT (渋谷クラブクワトロ, Oct. 8)
どうしてもひとつに絞ることができず、上記の3本を挙げておきます。
CK&JTは、彼らの歌は勿論ですが、バックを固めたメンバーの演奏も素晴らしく、特に"It's Too Late"でのダニー・コーチマーのギターにはシビれました。アンコールではJTの煽りでステージ前に行ってしまったのもいい思い出です。目の前ではしゃぎまわるキャロルが可愛かった。
キング・ソロモンは最初で最後の来日となってしまいましたが、今となっては彼に与えられた時間に間に合ったことを感謝。特に2日目は選曲も含めて最高のパフォーマンスを見せてくれたのが今も印象に強く残っています。
ジェフ&エイモスは、前回を観ていなかったので個人的には33年ぶりの参戦でしたが、アメリカン・ルーツ・ミュージックの奥深さを存分に味わせてくれたライヴで、正に至福のひとときでした。





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