ブルース銀座: 2010年ベスト・アルバム10選: 上田有



2010年ベスト・アルバム10選
上田有
http://bayougate.voxx.jp/


Solomon Burke


Susan Cowsill


Cedric Watson


Ronnie Wood

2010年はとにかく夏が暑くて長かった。野外イヴェントに参加した9月末の石垣島まで、いつまでも続く夏の中にいたような印象でした。…だからといって夏っぽいセレクトでもなく、今年もバイユーゲイトでのヘヴィローテーション盤を中心に楽しく選びました。順位は4位までが三つ星。残り6枚が二つ星です。最終選考でブルースものを軒並み落選させてしまったことを陶守くんにお詫びいたします。

1位 ★★★
  • SOLOMON BURKE / Nothing's Impossible (E1 Entertainment EIE-CD-2086)
    春に私チャートの首位に立って以来、結局最後まで突っ走ってしまいました…。5月に行われた痺れるほどに感激感動の来日公演。そして10月に届けられた訃報。やはりキング・ソロモンなくして2010年は語れません。どっしり腰の据わった作りの濃厚なソウルミュージック。本作はウィリー・ミッチェル最後のプロデュース作でもあります。往年のハイサウンドにさりげなく、かつ丁寧に現代感を加えた温故知新の極みともいえる様な素晴らしい音盤です。「ソロモン・バークというよりアル・グリーンみたい」という声も耳にしましたが、キャリアの最後にこれだけの名盤を残せたという事実の重み、そして内容の素晴らしさの前には大した問題ではありません。タイトル曲を聴くと野音のオープニングが思い出されグッときます。

    2位 ★★★
  • SUSAN COWSILL / Lighthouse (Threadhead)
    元Cowsillsの女性シンガー、スーザン・カウシルのソロアルバム。遅れに遅れて、最後に到着した〜カトリーナ後のニューオーリンズからの便り〜といった手触りの作品です。多くの印象的な作品がニューオーリンズからリリースされた数年後にふいに届けられた本作。ハリケーン災害で、そしてその翌年、と相次いで兄を亡くした彼女には5年という時間が必要だったというわけでしょうか。月日を経て、丁寧に作り上げられた味わい深く、そして強い作品になっています。嘆き、怒りではなく想いを慈しむ感情、そして内面的な強さを持った手触り。じっくり聴き込める作品です。音的な共通点はないのですが、僕は最初に聴いてアーマ・トーマスの『After the Rain』を思い出しました。聴くほどに良さの沁みる誠実な作品です。

    3位 ★★★
  • BOBBY CHARLES / Timeless (Rice 'N' Gravy RIC 517)
    遺作として届けられた本作。寡作であった彼が最後の作品の完成を自らのタイムリミットに間に合わせたのも感動的だけれど、内容の素晴らしさがそれを上回ります。良い曲が良い演奏で、素敵な声で吹き込まれた文句無しのアルバム。ドクター・ジョンとサニー・ランドレスの貢献度も特筆モノ。聴く度に気持ちをほぐしてくれる心地良さも絶品です。

    4位 ★★★
  • AARON NEVILLE / I Know I've Changed (Tell It/EMI 5099960651020)
    「ゴスペルアルバム」という枠に収まりきれない傑作だと思います。アーロンがいつも通りに歌っているように聴こえて「現在のアーロンの声」を生かす細かな配慮がそこかしこに。トゥーサンを含むバンドは歌心満点、最高です。音色だって厳選されてます。裏で糸引くジョー・ヘンリー、クセ者です。

    ★★
  • RONNIE WOOD / I Feel Like Playing (Eagle EAGCD428)
    あまり良い噂の聞こえてこなかった昨今。…大丈夫かいな?との心配を吹き飛ばしてくれる快作。そりゃぁそんな新味があるわけではありませんが良い曲を自然に演ってます。数曲あるラウドなサウンドは個人的に今ひとつですが総じて曲が良い!比べると非難されそうですが、不意にロニー・レインを思い出したりしました。本作が特別似ているというわけではありませんが、かつてロニー(レイン)の周りに居た人で現在これだけ(音面でなく)当時の匂いを感じさせる作品を作っている人っているでしょうか?スタジアムを中心に公演するバンドに30年以上在籍して尚、良くも悪くもあの頃のままギターを弾き歌っているように思えるのです。堪りません。

    ★★
  • LOS LOBOS / TIn Can Trust (Shout Factory!/Pヴァイン PCD- 24256)
    いや〜現代最強のロックバンドはなんとも強力です。刺激的な尖った作品を連続して出していた90年代も良いのですがここ3、4作の円熟期とも呼べそうなアルバム群は素晴らしいの一言に尽きます。強力な作品を安定供給する凄いバンドになってしまいました。弾いてる指や腕が見えそうなくらいにブルージーなギターサウンドに粘っこいラテンロック。枯れる気配のない創作意欲が全編を通じて感じられます。渋い部分は沢山あるのですが、とにかくカッコイイ!円熟期に入ってなおドギツイ手触りもある本当の意味での大人ロック。必死に生きてるオトナは簡単に枯れたり、ヤワになったりなんかしないのです。

    ★★
  • ANN SAVOY & HER SLEEPLESS KNIGHTS / Black Coffee (Memphis Int'l)
    ケイジャンのつもりで聴き始めたらアコースティック・スィング?オールドジャズ?の本作でしたが、これがなかなかの好盤。こういうアン・サヴォーも良いものです。有吊曲のカヴァーで聴き易い女性ヴォーカル…。ともすれば安易な企画モノになりそうなところを渋い香りの漂うトロリとした作品に仕上げています。すっかり売れっ子プロデューサー、Tボーン・バーネット流石の仕事ぶりです。

    ★★
  • CEDRIC WATSON ET BIJOU CREOLE / Creole Moon Live From Blue Moon Saloon (Valcour VAL-CD-0014)
    ソロミュージシャンとして評価も高まってきた時期のLIVE盤!というありがちな展開かと思いきや、アフリカの楽器コラを導入する等〜現場では更なるミクスチャー路線へ踏み出していることを示す作品となりました。タジ・マハルを思い出す瞬間も。なにより充実期のミュージシャンらしくなんともイキの良いライヴが収められています。もう少しハジケて下さればなお良しです。

    ★★
  • ERIC LINDELL / Between Motion And Rest (Sparko)
    ここ数年毎年愛聴盤となっている彼の新作。2010年盤も良く聴きました。今作はブルース色の強い仕上がりながら、独特のグルーブ感や浮遊感は健在で決してひとつのジャンルに染まりません。前作のカラフルさに比べるとモノクロな手触りですが(ジャケの印象ではありません)地味になったわけではなく楽曲もアレンジも深化しています。ただ、どんなサウンドを纏ってもニューオーリンズのロックミュージシャン!という香りは残っているように思います。かすかに匂うイナタサが良いのです。そう、決してオーガニック系??の人ではないのです。

    ★★
  • TEXAS TORNADOS / !Esta Bueno! (Bismeaux BRB1290)
    ダグの息子ショーンが加わった新生トーネイドスの新作。新味があるわけではないですがなんとも楽しい好盤です。1年を通して本当に良く聴きました。自らのキャリアを歩みつつあった息子が、いつしかこんなにも親父さんの音楽に寄り添ってしまっているという事をどう受け取るかで評価は分かれるのでしょうが、僕は楽しければOKでした。ブルースの世界では珍しいことではないですしね。1曲目はバイユー2010年のヒット曲。



    ■ 次点はAugie Meyersの3連モノのみを取り上げた激渋盤(ピピッときた方には大推薦)&1曲目がバイユーでスマッシュヒットのJimmie Vaughan。そしてイナタいザディコで良く聴いたLeroy Thomasでした。Robert CrayのライヴやJunior Wellsの発掘ライヴ、Joe Krownのファンキートリオ、そしてKermit Ruffinsはほんの僅か及ばずでした。

  • 赤色: 新録もの

    紺色: 再発もの




    ベスト・ライブ
    SOLOMON BURKE
    (Japan Blues & Soul Carnival;東京/日比谷野外音楽堂, May 29)
    やはりコレでしょう。新譜に感動!来日決定に大興奮!ポスターに大いに盛り上がり!ながらも「椅子から立てない」等と聞かされては、過大な期待は持たないようにしていました。ところが蓋を開けてみれば驚愕の圧倒的なソウルショー。何故に椅子に座ってあれほどの歌が歌えるのでしょう?とにかく胸が熱くなりました…感動しました。ソウルミュージックって昔はこうだったんだ。と野音の空を見上げて思ったりしたのでした。
    次点は石垣島の野外で体験したローリークック率いる『TheWaltz』(9/25)。殆ど地元民だけの会場。そして強力に熱狂し歌い踊る石垣島のファンたち。住宅地至近の夜の野外会場とは思えないほどの大音量のロックンロール&ソウル。オムニバスイヴェント出演とは思えないほどの長時間の演奏に、繰り返されるアンコール。どれもこれも未知の世界でした。石垣は暑くて熱かった。長かった夏が終わって行くのが目に見えるという貴重な体験をしたのでした。





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