2013/9/26

「ゴースト・ミュージシャン」を読んで  R&B/ソウル

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鈴木啓志氏の音楽書としては久々の「ゴースト・ミュージシャン」。舞台は主に1960年代から70年代にかけて数多くのサザンソウルの名作を生み出したアラバマ州マッスルショールズのフェイム・スタジオです。

名作が生まれた背景にはどのような状況があったのか、その真相に迫る鈴木氏入魂の作です。「ゴースト・ミュージシャン」とは、ゴーストライターになぞらえて鈴木氏が生み出した造語。鈴木氏は、スター歌手のレコーディングを陰で支えた知られざるスタジオ・ミュージシャン達(特にフェイム・ギャング)をあえて主役に据え、その知られざる姿を描き出そうと試みます。

フェイムのリック・ホールとアトランティックのジェリー・ウェクスラーという、ともに多くの名作を手掛けた2人には、どのような考え方の違いがあったのか、それがどのような形で作品に現れているのか。あるいはフェイム・スタジオのレコーディングに多く参加したフェイム・ギャングはどのようないきさつで生まれたのか、マッスルショールズ・リズムセクションと比較しての立ち位置はどうだったのか?などなど、ソウル・ミュージックを愛するものであれば興味深い内容が満載です。

鈴木氏は、この時代に各地で行われたレコーディング・セッションのデータをひとつひとつチェックし、ミュージシャンたちがどのような動きをしていたのかについて仮説を立て、個々の作品を自らの耳でチェックしていくことで、その検証を行っています。細かい点と点を集めて面を形成していく、いわば刑事事件の捜査のような気の遠くなる作業です。ここまでの細かい仕事は、この道に深く入り込んで何十年という鈴木氏だからこそなせる技でしょう。ただ漫然と「いいなぁ」と聴いてきた名作にも、様々なドラマが隠されていることが語られており、目からうろこが出る思いです。

鈴木氏は、これまでソウル・ファンからはある種バイブル的な扱いを受けてきたピーター・ギュラルニックの著書「スウィート・ソウル・ミュージック」、あるいは英ケントからリリースされ大きな反響を呼んだCD「フェイム・スタジオ・ストーリー」のブックレットに記載された事項にも、真っ向から「それは全く違う」と反論をします。何がどうして違うのか、独自理論を展開し、「実際はこうだったのだ」と氏の結論を示します。世間の定説に流されない鈴木氏の意志は、敬服に値します。

と、本書のすごいところを書いてみましたが、なれ合い的な褒め言葉で終わらせても意味がないので、あえて気になった点も挙げてみます。

正確なデータが残っていない事項については、鈴木氏がここで明らかにした「史実」もあくまでも推測、仮説にすぎず、断定口調で書かれているのには、やや違和感を覚えざるを得ません。「この曲でプレイしているのは実は誰々である」はまだしも、「リック・ホールはマッスルショールズ・リズムセクションのプレイに物足りなさを感じていた」など、(インタビューの引用ならともかく)本人でなければ判らない心の内まで事実として書くのはいかがなものか。かなり鈴木氏のバイアスがかかった歪んだ世界が描かれてしまっているのではないか、という疑問が残ります。

推測であると断って書かれている部分もあり、鈴木氏の中では、自分なりに史実と推測の切り分けができているのかも知れませんが、僕には両者が混とんとしているように思えてなりません。実際、鈴木氏の書かれている通りだった事項も多いのでしょう。ただ、ギュラルニックのように現地で綿密な取材を続けた人に対して真っ向から反論するには、充分な根拠が示されているとは、僕には思えませんでした。

「確固たる証拠を見つけた」とここで語られるのは、基本的に鈴木氏が自らの耳で作品を聴いて「確かにこのプレイはロジャー・ホーキンズではなく、フリーマン・ブラウンだ」というような話であって、これは世間的常識では確固たる証拠とまでは言えないだろうと思います。

鈴木氏は、関係者が語ったことが真実とは限らないと言います。確かに僕もミュージシャンへのインタビューをした経験から、それは実感しています。ただ、それを判ったうえで、当事者に訊かねば始まらないということも多いはずです。ここには、その視点が抜け落ちているのではないでしょうか?

来日時のインタビューでミュージシャン達から語られた内容はチラホラ出ては来ますが、基本的に本書の根拠は既存の資料とレコーディングを聴いた鈴木氏の耳に依存しています。少なくとも執筆時点で存命の関係者には可能な限り、本書の主旨に沿ったインタビューをすべきだったのではないでしょうか?

また、鈴木氏はギュラルニックの著やフェイム・スタジオ・ストーリーのライナーを、自論を補足する材料として度々本文の中で使っています。「おかしいのではないか?」と問題提起をしている資料をそのように使うのは、ちょっと筋が通らないと言わざるを得ません。

本書がソウル・ミュージックをより深く知るために一石を投じることになることは間違いないと思います。その意味ではとても意義の大きい作品です。良くも悪くも、常に愛する音楽に対し前のめり気味な鈴木氏らしさが前面に出た意欲作であり、問題作だと思います。

読んでいると、むらむらと色々ここら辺の音源が聴きたくなります。レアものの話が多いのですが、僕も手元にあるものから聴いて行こうと思います。

【本書についての詳しい情報】
鈴木啓志「ゴースト・ミュージシャン」発行
http://black.ap.teacup.com/sumori/1450.html
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