2016/8/25
映画「ソング・オブ・ラホール」 音楽全般
非常に興味深い映画でした。かつては、ジャズ・ミュージシャンも多く訪れ、音楽と映画が盛んだったパキスタン北部の都市、ラホール。これは、1977年の軍事クーデターを機にイスラム化が進み、文化が衰退していく中を生き抜いたラホールのミュージシャンたちの人間ドラマであり、それを乗り越えて生まれた新たな音楽のドキュメントです。
イスラム化に伴い音楽や映画がことごとく禁止され、ミュージシャンとして生計が成り立たなくなる中で、なおその文化を絶やさないという、ミュージシャンたちの思いには胸が熱くなりました。そして、彼らに転機が訪れたのは、彼らのホーム・グラウンドとも言えるサッチャル・スタジオの創設者、イッザト・マジートがパキスタンの伝統音楽とジャズとの融合を思いつき、デイヴ・ブルーベックの名曲”Take Five”をパキスタン風に演奏したプロモビデオ映像をYouTubeで公開したことがきっかけでした。
これがBBCに取り上げられ世界的な注目を集めたのでした。ブルーベック本人が彼らの演奏を大絶賛。一度は落ちるところまで落ちた彼らが、ニューヨークのジャズ・アット・ザ・リンカーン・センターでウィントン・マルサリスとの共演を果たすまでの足跡を映画では追っています。
初めて顔を合わせたマジートにマルサリスが「自国の文化を発信するのにジャズを利用するという発想はいったいどこから来たのか?」と聞いたのに対し、マジートが「私たちはジャズを聴いて育ったんです」と答えるシーンは非常に印象的でした。イスラム化が起こる前は、米国の国務省が音頭を取って、文化大使として米国のジャズ・ミュージシャンをパキスタンに多く送り込んでいたという歴史があり、彼らはそういう音楽に自然に触れていたのでした。
リンカーン・センターのコンサートでは、"Take Five"はもちろん、マルサリスの故郷、ニューオーリンズのサウンドとの融合も聴くことができます。
この映画は純粋に音楽を聴くだけでも充分にワクワクする面白さがありますが、特にミュージシャンたちのストーリーに心打たれました。
8月13日より、日本でのロードショウが始まっています。映画公開に合わせ、この映画に出演したミュージシャンたち(サッチャル・ジャズ・アンサンブル)が9月に初来日し、東京JAZZなどで公演を行う予定となっています。映画とあわせ、ぜひチェックしてみてください。
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ソング・オブ・ラホール(Song of Lahore)
監督・制作:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
2015年・アメリカ 82分カラー
【公式サイト】
http://senlis.co.jp/song-of-lahore/
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