アイアニング・ボード・サム来日公演レポート

Ironing Board Sam in Japan
July 25, 1996



ちょっと公演から時間が経ってしまったが、珍しい人が来日した。アイアニング・ボード・サムは、キーボードをアイロン台の上に乗せて弾くユニークなスタイルで、地元ニューオーリンズを中心に60年代初頭から活動してきた人。シングルは、いくつか出してはいるものの、アルバムは最近リリースになった"The Human Touch (Orleans OR1711)"が初となる。レストラン「ヴォルガ」に彼が出演すると聞いて、なにー!?と駆けつけてしまったが、そこでは人のよさがにじみ出たサムのオヤジが、地味ながら味わい深い演奏を聴かせていた。

ステージの合間に、彼と控え室で少々話すことが出来たので、そこら辺の様子からどうぞ。インタビューというほどのものではないので、念のため...。


サム:いやぁ、さっきインタビューした人がさぁ(BSR誌の鈴木啓志氏のこと)、僕のすごい昔のシングルとかたくさん持っててさ、ビックリしたよ!自分も忘れてたものもあったりしてね。(すこぶる上機嫌)

●そう、あの人はいつもあんな調子なんですよ。日本有数のレコード・コレクターでしょうね。
サム:へぇ、そんな人もいるんだねぇ。昔の話しとか色々話したよ。

●過去の話しとかするのは、嫌ではないんですね?
サム:全然。なんでだい?

●結構過去をほじくり返されるのを嫌がるミュージシャンもいますからね。「そんなことより今の俺のことを聞け!」ってね。
サム:そうかぁ。それは多分過去に苦しいこととか色々あったんで思い出したくないんだろうな。僕も若い頃は結構苦労もしたけどね。今の妻は、三人目なんだけど、中には今の妻にも話せない辛いことだってあったよ。だからといって過去の話しをすること自体が嫌ってことはないけどね。

●なるほどね。で、どうですか、日本でプレイしてみて。この会場は、レストランなんで食事メインで来てる人もいるからやりにくかったりはしません?
サム:そうだね、ガンガンやれる呑み屋さんだったら、お客さんをもっとのせることも出来るんだけどね。そういうクラブってここら近辺にも結構あるの?

●ありますよ。色々いい地元のブルースやR&Bもいますしね。
サム:へぇ、それはいいね。

●そう言えば、今年僕ニューオーリンズのジャズフェスに行ったんですよ。
サム:そう?僕も出てたんだよ、最終日にね。

●はい、知ってます。でも朝早かったでしょう?見たかったんだけど、前の晩夜遅くまで遊び過ぎて、目が覚めたときにはもう手遅れでした(笑)。今日こうやって見に来れてよかったですよ。
サム:ありがとう。ジャズフェスは結構前から出ているんだ。初めて出たのは、えーっと...。72年だったかな?いや73年?75年かも知れないな。ハッキリとは 思い出せないけど。

●どちらにせよ、僕にとってはかなり前ですねぇ。まだ、こういう音楽を知りもしなかったですよ。ところで、あなたのあのアイロン台にキーボードを乗せて弾くスタイルはいつ頃からやってるんですか?
サム:いつかはよく覚えてないけど、その昔メンフィスに行ったときだったなぁ。 すごい小さいキーボードしかなくてね。カッコがつかないんで、ちょうどあった アイロン台に乗せたってわけ。自分にとっての最初の仕事は16の頃だったな。 オルガンを弾いて初めてギャラを貰ったんだ。

●オルガンだったんですか?
サム:そう。でも今あるようなやつじゃないよ。小さくてペダルを踏まないと音がでないやつさ(笑)。今は電気のものが多いけど...。

●ああ、そういうオルガンって僕の行ってた小学校にもありました(笑)。懐かしいですよね。

(96年7月25日、芝公園ヴォルガで)


セット・リスト

1st set
Baby What You Want Me To Do
Mardi Gras In New Orleans
Unchain My Heart
Non Support Blues
Walkin' The Back Streets Cryin'など

2nd set
1. Honest I Do
2. Please Send Me Someone To Love
3. Blueberry Hill
4. Ain't No Sunshine
5. Summertime
6. Downhome Blues
7. Happy Birthday
8. You Send Me


このライブ、客もそう入ってなかったので、会場にはショボい雰囲気も漂っていたのだが、当の本人は公演で日本まで来れたのがよほど嬉しかったのか、終始ゴキゲンだった。セット・リストを見てもらえば判ると思うが、演奏曲目はスタンダード・ナンバーが中心だったが、ほのぼのとした雰囲気のサムの個性は健在で、なんか嬉しくなってしまった。ステージは、最初は2曲ほどがアップライト・ピアノの弾き語りで、その後はキーボードを弾き、ギターとのデュオで聴かせた。このキーボードを乗せていた台こそ、彼のトレードマークのアイロン台だ。まるでクリスマス・ツリーのイルミネーションのように電球でピカピカ光っているのがスゴかった。


噂のアイロン台でキーボードを弾くサム

このアイロン台、実は入国するときちょっと問題になったらしい。税関で台の入ったケースを「これは何だ?」と訊かれて、サムは「アイロン台です。」と答えた。大きなアイロン台を持って旅しているオヤジなんてそれだけでも怪しいのに、税関の職員はその現物を見て更に怪しんだようだ。何とか通関できてよかったと思います。言うまでもないが、彼は別に怪しい者ではないです。この後、通関を済ませたサムは税関にパスポートを忘れるというドジを踏んだそうだ。頼みますよ、ダンナ!

日本滞在中は、六本木のウィークリー・マンションのようなところに泊まってたのだが、毎朝早起きして散歩をする健康オヤジだったとのこと。コンビニの和食弁当を自分で買ってきて食べたり、とても地味で庶民的な日本滞在だったらしい。

尚、ここら辺の裏情報を提供してくれたのは、サムを日本まで連れてきたギターの山田ヒロナリ氏。ステージでのサポートぶりも堪能させてもらいました。ぶるぎんにも協力してくれてありがとう!






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