ロングビーチ・ブルース・フェスティバル 1995
REPORT
西海岸の祭典にアメリカ全土の強者が大集合!




ロング・ビーチ・ブルース・フェスティバルも1995年で16回目を迎えた。

シカゴやニューオーリンズのフェスティバルと較べて、このフェスティバルはまだまだ日本ではあまり知られてない気もするが、いまやサンフランシスコ・ブルース・フェスティバルとならんで、西海岸最大のブルースの祭典と呼ぶに相応しい盛況ぶりだ。

9月の土日、2日間に渡って開催され、通して2万5000人位の観衆で会場は賑わうのだ。(まぁ、それでもシカゴ、ニューオーリンズと較べればケタがひとつ小さいけどね)

ロング・ビーチという街は、ロサンジェルスの郊外(ダウンタウンから車で約50分)にある太平洋に面した都市で、L.A.の周辺都市の中でも比較的黒人の人口比率の高いところ。ラップ、ヒップホップ・ファンには、スヌープ・ドギー・ドッグが生まれ育った街としても知られているだろう。ブルース・ファンも多く、市内にはブルースを聴かせるクラブ、レコード店が数多くある。

ロング・ビーチ・ブルース・フェスティバルは、市内にあるジャズのラジオ局 KLON(FM88.1)で、当時ブルース番組のDJをしていたギタリスト、バーニー・パール(最近では、ハーモニカ・ファッツとの活動で知られる)が1980年に始めたイベントだ。

こんなロング・ビーチのフェスティバルに、僕が最初にでかけてみたのが1985年のこと。
それからすっかりはまってしまって毎年行くようになってしまい、早いもので11年の歳月が流れてしまった。
俺も、もう若くはない、と気がしてくる。

この11年間、このフェスティバルで幸運にも多くの貴重なライブ・パーフォーマンスに接することができた。エディ・クリーンヘッド・ヴィンソン、ウィッスリング・アレックス・ムーア、アルバート・キング、ジョニー・シャインズ、ビッグ・トゥイスト、ジェシー・トーマスなど、過去の出演者の中にはもうこの世にいない人も多い。これらの人の貴重な演奏に接することが出来たことは、僕の生涯の宝だ。


さて、95年のフェスティバルもなかなか豪華だった。
9月9日(土)と10日(日)の2日間、いつもの開催地、ロング・ビーチ大学敷地内のグランドで行われた。

今年のフェスティバルのタイトルは"BLUES FROM COAST TO COAST"。
全米各地方よりすぐりのブルース・アーティストがこのイベントのために集結した。



初 日 9日(土)


シカゴのバディ・ガイのクラブ「バディ・ガイズ・レジェンズ」のハウス・バンド、ハワード・アンド・ザ・ホワイト・ボーイズの演奏でフェス幕開け。
このところ、彼らは地元シカゴでは人気急上昇だとか。ハワードという名前の黒人ベーシストがヴォーカルをとり、残りのメンバーは皆白人というバンド。特に新しさはない正統派なブルースだったが、2人のギタリストがかなりうまくて、彼らのバトルは結構盛り上がった。

続いて、ファット・ポッサム・レーベルのミシシッピー・ブルースご一行の登場。
予定されていたR. L. バーンサイドは何故かいなかったが、ジュニア・キンブローと期待の若手デイヴ・トンプソンの演奏を聴くことができた。ワン・コードで気の向くままに演奏するジュニア・キンブローは、ギターの最初の一音で「うっ、ディ、ディープだ!」と思わず唸らせる、独自の雰囲気を作り上げていた。CDのあの音が生で聞こえる!感動の一瞬だった。デイヴ・トンプソンは、26歳という若さのギタリスト。ミシシッピー・ブルースとはいってもジジイのばっかではない。レイ・ヴォーン系の元気なギターが印象的だった。顔は無表情なのに結構テンションの高いギター弾くんだよなぁ、この人。難を言えば歌が弱いことかな。でも今後の成長に期待は持てそうな感じだ。グリーン・デイのTシャツを着ていたのが面白かった。

お次ぎはロサンジェルスの面々が登場。
顔ぶれは:フロイド・ディクソン、ジミー・ウィザースプーンw/ジェイ・マクシャン、チャールズ・ブラウン、ジョニー・オーティス・ショーw/ローウェル・フルソン、リンダ・ホプキンズ、ビッグ・ジェイ・マクニーリー。
これは、スゴい!オールスターだ!さすが、地元。フロイド・ディクソンは15分位の短い顔みせでもっと聴きたかったが、健在ぶりをアピールした。"Hey Bartender"は、やはりいい曲だ。近々アリゲーターから久々の新作をだすようなので楽しみだ。

ジミー・ウィザースプーンはちょっと声の調子が良くなかったみたいだったが、ダンディな雰囲気は健在。
ジェイ・マクシャンのピアノものりのりで最高だった。因みにフロイド・ディクソンとジミー・ウィザースプーンのセットでドラムを勤めたのは、ニューオーリンズR&B界の大物ドラマーのアール・パーマー。最近アラン・トゥーサン、ドクター・ジョンらによるアルバム"Crescent City Gold"に参加したりしてたが、こんなとこでみれるとは!

続いて、楽しみにしていたチャールズ・ブラウン!
きんきらきんのまるでラスヴェガスのネオンのように派手なスーツを身に付けたチャールズ。最近のアルバムに参加しているメンバー(ダニー・キャロン - guitar; クリフォード・ソロモン - t. sax;ルース・デイヴィーズ - bass; ゲイロード・バーチ - drums)をまるごと従えての1時間。甘く、おしゃれで、ちょっぴりジャジーなブルース。もういつまでもこうして聴いていたい。そう思わせる最高なライブだった。

ジョニー・オーティス・ショーは、ゲスト入り乱れての大パーティー状態(いつもそうか…)

最初のゲスト、ローウェル・フルソンは最近病気していたという噂もあってかいまいち元気もなく、最後は有名な"Tramp"でしめるが、盛り上がらず。

次に出てきたのはリンダ・ホプキンズ。数年前にチオビタ・ドリンクのコマーシャルにでて日本でも顔が知れ渡ったオバちゃんですが、ヴォーカルのパワーは圧倒的。堪能させて頂きました。R&Bからジャズまでレパートリーは広い人だが、ここでは正統派ブルースでまとめていた。

次は、暴れ者ビッグ・ジェイ・マクニーリー。
ステージに彼はまだ現われてないのに、突然響き渡るサックスの音!ふと、振り返るとビッグ・ジェイが観客をかき分けてやってくる。みんな彼に向かって走る走る!群がる群がる!結局、ビッグ・ジェイは自分のもち時間をずっと客席で吹いて歌い、一度もステージには上がらなかった。オヤジ歳とってもやるなぁ!有名な"There Is Something On Your Mind"の熱唱もバッチリだった。

この後は、ジョニー・オーティス・ショーのメンバーだけでアリサ・メドレーはやるわ、なんだかんだで宴会芸ノリだったが、結構盛り上がった。どさくさっぽかったけど、これがこの人達の味なのでまずは満足。

お次は、ドクター・ジョン。
ニューオーリンズ代表という立場で出ているせいもあり、かなり濃縮なニューオーリンズの世界が展開された。"Going Back to New Orleans"、"My Indian Red"、"Right Place, Wrong Time"、"Big Chief"そしてもちろん"Iko Iko"など。ギターは弾かなかったけど、文句なしの演奏だった。この翌月の来日公演も観に行ったが、ここでも同様にニューオーリンズ色の濃いステージが展開されていた。僕の行ったときなんて、"Tipitina"もやったもんね。

初日トリは、シカゴのオーティス・ラッシュとバディ・ガイ。
ついこの間のジャパン・ブルース・カーニバルを思いだしてしまったが。まずは、オーティス・ラッシュ。野音でのラッシュは本当によかったですが、この日も調子は上々。ただ、演奏時間が30分位しかなく、やや不満。最後の大トリのバディは、いつもの調子でガンガン攻撃的に演りまくり、盛り上がってこの日は終了。

僕ら一行は、くたくたになって帰り、2日目に備える。





2日目 10日(日)


この日は、ロサンジェルス地元の若手ゴスペル・グループ、ザ・スターライツでスタート。
因みにここ数年、このフェスの日曜の朝はゴスペルが定番となっている。 去年は感動的だったステープル・シンガーズ、その前はファイヴ・ブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマがでた。

このザ・スターライツ、僕も名前を聞くのは初めてだったが、なんでもL.A.のハウス・オブ・ブルースに定期的に出演しているバンドだそうだ。いきなり1曲目がファンク・バリバリだったのでちょっとびっくり。こんなゴスペルもあるんだなぁ、てなかんじだった。
でもその後は結構ゴスペルらしいコーラス主体のパワフルな演奏が繰り広げられ、なかなか気に入ってしまった。ファンクの曲もカッコよかった。ギターの人も結構弾きまくっていて、気持ち良かった。今度、ニュー・アルバムが出る、とのことでしたが、間に合わなかったらしく、会場には持ってきてなかったのが残念でした。会場にあったTower Recordsのブースで聞いたら、9月19日発売とのこと。もう発売されてるでしょうけど、日本では見つからない、残念。

この日の2番手は今年80歳になるブラウニー・マギー。
かつてハープのサニー・テリーとデュオを組んで、数々の名作を残した伝説のオヤジだ。
ハーモニカ、アコギ2本(+本人1本)、アコベ(アップライトじゃないやつ)のメンバーと、ブラウニーが横一列に並んでのアクースティック・ブルース・セッション・スタイルのセットだった。80歳にもなってちゃんとやれるのかちょっと心配だったけど、ブラウニーは健在でした。
元気、元気!あれで80歳とはねぇ。若い若い。渋くてかっこいい。よかったです。余談ですが、ちょうどブラウニー・マギーのステージの進行中、「そこにミュージシャンの人が観に来ているよ」と客の一人に教えられいってみると、それは最近キャンド・ヒートに加入したロバート・ルーカスだった。僕が日本の音楽雑誌のライターをやっていると言うと、インタヴューしないか、と誘われたけど、質問なにも考えてないし、ブラウニー・マギーが観たかったので「またあとで」と言ってその場を離れてしまった。
でも、タンク・トップ着てサンオイル塗ってへらへらしてるただのオヤジだったなあ。

続いて登場は、ファビュラス・サンダーバーズ。
デューク・ロビラードの後任で加入した西海岸出身のギタリスト、キッド・ラモスは、ジミー・ヴォーンの精神を引き継ぐなかなかいいプレイをしていた。キーボードもいたけど、あれは誰だろう?ドクター・ジョンのようなヒゲおやじだった。T-バーズの演奏はジミー・ヴォーン在籍時と較べても遜色なしのいいライブだった。キム・ウィルソンは、やっぱハープうまいなぁ。あらためて感心。また日本にもこないかなぁ。

さて、次はこの日のメイン・イヴェント、STAX大特集!!
ブッカーT&ジMGズとメンフィス・ホーンズをバックに、ルーファス・トーマス、メイヴィス・ステイプルズ、エディ・フロイドがたて続けに見れるなんてが豪華じゃありませんか。

まず、MGズのみの演奏。癌で闘病中だったらしいダック・ダンの状態が心配だったが、登場してビックリ。かつてのあのふっくらした体形がうそみたいにゲッソリ痩せた姿でステージに現われた。やはり、相当大変だったんだと思う。なんかみているのが辛い感じがした。でも、この日の彼のプレイは、病気を気合いで吹き飛ばすようなすごいプレイだった。今まで彼はライブで何回も観ているが、あんなに気合いが入っているのを観たことがないくらい。あれは、完全復活と素直にとっていいのか、それとも先が長くないことを知って、最後の力を振り絞っているのか。なんか心配になってしまった。でも最高のプレイだった。

MGズのみの演奏は結構長かったんで、最後の方はちょっと疲れたが、休憩を挟んで、ルーファス・トーマスが出て来たころには、そんなことはすっかり忘れて、すごく盛り上がった。ルーファスのオヤジとMGズ、メンフィス・ホーンズまでつくなんて、バックとしてこれ以上は望めません。ルーファスは相変らずの元気ぶりで、"Walking the Dog"あたりでもう観客大興奮状態!来日したときもやってたけど、"Do the Funky Chicken"で観客のなかからギャルをいっぱいステージに上げて、皆に "Funky Chicken"の躍りをやらせ、更に盛り上がった。ったく、歳がいもなくしょーもないオヤジだ。

ルーファスの後は、間を置かずすぐメイヴィス・ステイプルズ。
ルーファスのあとでちょっと地味ではあったが、"Respect Yourself"などステープルズの曲を数曲披露。

最後はエディ・フロイド。
数時間前にヨーロッパから帰ったばかりで時差ボケだなんとかいいながら、跳ねていた、燃えていた。最後にはメイヴィスを再度ステージに呼んで何をするのかと思えば、口にぶちゅーとやってしまったのだった。どさくさに紛れてとんでもねーオヤジだな。


と、かくして2日間のイベントは終わりましたとさ。スゲー疲れたけど最高だった。 (陶守 正寛)








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