アルバート・キングがスティーヴィー・レイとバトルで火花を散らす、夢の共演盤。こんな音源が残されていたのか、と興奮している人も多いのではないだろうか?恐らくこの2人はライヴでは何度も共演はしているのだろうし、実際スーパー・セッションと銘打ったビデオでも同じステージに立っていたのを思い出す。 だが、このCDはライヴ盤とはちょっと違う。テレビ番組"In Session"用のスタジオ・セッションなのだ。収録されたのは83年12月。スティーヴィーがデビュー・アルバムをリリースし、上り調子だった頃である。アルバートのバンドにスティーヴィーが加わる形で行われ、曲間には2人のトークも挟み、和やかな雰囲気で進行していく。しかし、演奏は熱いのだ。冒頭のスタンダード1.から、アルバートはいつも貫録を見せてくれるが、スティーヴィーだって負けてはいない。師匠を目の前にして意識したのか、かなりアルバートっぽいフレーズを連発しているのには、ちょっと驚きだが、そのトーンは完全にスティーヴィー自身のもの。6.では、アルバートにジミヘンみたいに弾けよ、と煽られてジミっぽいフレーズを織りまぜながらバリバリに激しく弾きまくっている。 一方アルバートは、いつもながらチューニングは狂っているが、シンプルなフレーズで曲を自分のカラーに染める存在感は健在。盛り上がってくるとチョーキングでビシッと音も合ってくるから、気持ちいいことこの上ない。全体を通じてアルバートがセッションの主導権を握っており、曲の大半は彼のレパートリーだが、スティーヴィーのファンには、彼の3.を聴けるのが嬉しいところだ。当然スティーヴィーが歌い、いつものアレンジでやってるのだが、これにアルバートのギターがからんでくると、何とも不思議である。 ちなみに、このCDはテレビ番組のからの音源、ということは当然映像も残っているのだ。数年前にこちらもリリースの計画があったが権利の関係で実現しなかったとのこと。是非、こちらも出てほしいですね。(8/28/99)
先日のゲイトマウス・ブラウンの来日公演で、バリバリに弾きまくっていたキーボーディストを覚えているだろうか?彼の名は、ジョー・クラウン。以前ルーサー"ギター・ジュニア"ジョンソンのバンドにいた彼は、ゲイトのバンドに参加して早7年、既にバンドのサウンドに欠かせない存在となっていると言えるだろう。本作は、彼の2作目となるアルバムだ。楽器をオルガンに絞り、ブルースありR&Bありの、楽しい世界を展開している。ニューオーリンズR&Bの雰囲気に溢れる2.などは、彼のプレイもいい味を出している。ジミー・マクラクリンの3.を取り上げているのも心憎い。目玉は、ゲイトが3曲に参加していることだろう。いずれもインストだが、大々的にフィーチャーされた彼のプレイはファン必聴ものだ。ジャンピン・ジョニーも参加している。尚、彼の第1作、"Just The Piano...Just The Blues"(97年)は、全編ソロ・ピアノ。地味なアルバムではあるが、味のあるプレイをじっくり聴かせてくれる内容となっていて、こちらも是非聴いてもらいたい。(8/28/99)
昨年のライヴ・アルバムに続く、通算4作目のアルバムだ。今やニューオーリンズには欠かせないアーティストになった感のあるアンダースだが、その音はストレートなニューオーリンズ・サウンドは決して多くはなく、どちらかというと広い意味でのアメリカ南部を感じさせるルーツ・ロック、と言った趣向が強い。ここでは、以前より更にその傾向が強まっており、よい意味での田舎臭いカッコよさがなじんでいる。オーケー盤で聴かれたようなポップ色は後退し、その分リズムを強く押し出した骨太な仕上がりになった。何たってドラムスは、ジョニー・ヴィダコヴィッチ(ニューオーリンズの多様なセッションで活躍している他、アストラル・プロジェクトでも知られるジャズ・ドラマー)なのだ。強力である。これまでバンドの要ともなっていたテレサ・アンダーソン (vn., perc., vo.)が1曲しか参加してないのが淋しいが、彼女の不在が逆にギターに活躍の場を与え、ドライヴ感のある音を生み出すことに成功していると思う。アンダースがケブ・モーの"Slow Down"に参加したお返しか、ケブは今回2.に参加。カントリー的な曲調に、セカンドライン・スタイルのホーン・セクションが絡んでくる、ニューオーリンズ色を出した面白いナンバーとなっている。(8/28/99)
あのカーター・ブラザーズを再発見したコアなカナダの雑誌、リアル・ブルースが、自らレーベルを興してでもお届けしたという強い意志の下にリリースされたのが、このケニー"ブルース・ボス"ウェインのアルバムだ。アルバムのリリースは昨年(98年)だが、遅ればせながら紹介させてもらおう。ケニーは、サンフランシスコで育ち、80年代からヴァンクーヴァーに住むピアニストで、現在54歳。エイモス・ミルバーン等を彷彿させるゴキゲンなジャンプ・ブルースを聴かせてくれる。(ミドル・ネームの"Blues Boss"は、ミルバーンがかつて名乗っていた名前を拝借したものだ。)歌もプレイも音に深みは感じられないのだが、その分フットワークは軽く、ノリは抜群だ。"Sing, Sing, Sing"のようなイントロが印象的な1.など、曲の作りにも随所にオリジナリティーがちりばめられている。バックを務めるトゥウィスターズの好サポートぶりも要注目だ。他に本作の目玉はシュギー・オーティスが3曲に参加していること。最近何してんのかなあと思っていたけど、特にスロー・ブルースの16.などは、なかなかいいプレイを聴かせてくれてます。(8/28/99)
デトロイトの歌手、アルバータ・アダムスと言ってもピンと来る人は少ないのかも知れない。既に75歳を超えている彼女だが、アルバムとしてはこれがデビュー作だ。40年代から50年代にかけて、デューク・エリントン、ロイ・エルドリッジなどのバンドの歌手としてツアーに参加し、53年にはチェスで自己名義のトラックも2曲残している。それから40年以上も経った97年、彼女のカムバック作となる4曲がキャノンボールのオムニバスCD、"Blues Across America - The Detroit Scene"に収録された。そして、今回初の単独アルバムのリリースとなったわけだ。ジャジーなスロー・ブルースを中心に、渋い歌声を聴かせる好盤となっている。軽快なシャッフル6.は、彼女がジャズ・バンドで活躍していた古き時代を連想させるような、スウィング感あふれる1曲。ファンキーなビートを持った4.も新鮮だ。チェス録音のリメイクとなる8.は、若いころの声と較べると別人のようで華はないのだが、歌声の迫力と深みはかえって増しているように感じる。伊達に歳は重ねていない。(8/28/99)
1964年、シカゴのリーガル劇場では、B.B. キングが聴衆を熱狂の渦に巻き込み(名盤「Live At The Regal」)、ジェームス・ブラウンは、"Out of Sight"でファンキー・ソウルのドアを開けようとしていた頃...。 奇しくも同じ年、これらのミュージシャン達によって、隅に押しやられていたシカゴのブルースマン達の貴重な録音が、数多く録音されていた。英Deccaは、エディ・ボイド、ウォルター・ホートン、ロバート・ナイト・ホーク他を録音し「Blues Southside Chicago」というLPを製作している。また、スウェーデンからも、国営ラジオ局のクルーが、シカゴ〜メンフィス〜ニューオリンズへと移動しながら、番組用に多くの録音を残している(この音源も先頃「I Blueskvarter」というタイトルでCD化が始まり、ここでもレヴューされている)。さらに、時期は若干ずれるが、ピート・ウェルディングによってTestamentの録音が行われたのもこの頃だし、サミュエル・チャーターズの「Chicago/The Blues/Today!」のシリーズの録音も65年の事だとされている。 そして、この年の8月。たった2人の撮影隊が、シカゴのマックスウェル・ストリート・マーケットの奥深くへと侵入して行った。監督兼カメラマンのマイク・シェイ氏と音響担当のゴードン・クイン氏である(時たま録音助手としてノーマン・デイロン氏および編集担当のハワード・アルク氏、そしてマイク・ブルームフィールド氏やチャーリー・マッスルホワイト氏が同行したらしい)。彼らは、長い歴史を誇るこの青空市場の全てを記録する為に撮影を開始したのだ。彼らの撮影はその年の12月まで続いたが、総撮影時間は100時間にも及んだという。そして、それを編集し作られたのが「And This Is Free」というドキュメンタリー映画であった(この映画はShanachie社よりヴィデオ化されていたがすでに廃盤。現在はSTUDIO ITが権利を獲得し配給先を捜している)。 現在では「シネマ・ヴェリテ」の手法を取り入れた、優れたキュメンタリーとして評価を勝ち取っているこの映画だが、当時は余りにも前衛的であった為か遂に評価を得られないままに終わってしまった。失意のシェイ氏は、映画に使われなかったテープを倉庫に仕舞込み、いつしか捨てられてしまったというのだ。 ところが奇跡が起きた。撮影から31年を経た95年。不幸にも事故死をしてしまったシェイ氏の遺品の中から、大量のオープン・リールが出てきた。それを息子のパトリック・シェイ氏がSTUDIO ITのイアン・タルクロフト氏の元に持ち込んだのであった。ブルース・ファンであったイアン氏は、そのテープを聴いて驚いた。なんとそこには、マックスウェル・ストリートにおけるジョニー・ヤングの演奏が収められていたのだ!そして、この「事件」がこのCDを製作するプロジェクトの始まりとなったのであった。 前置きが長くなった。CDの内容についての紹介を進めて行く事にしよう。まず、このCDは残されていたサウンドトラックのほぼ全てを使い、しかも正当な権利の元で発売された完全盤である事を強調したい。と言うのも、既に御存じの様にこの中の9曲は、ラウンダーから「Live On Maxwell Street」としてLP(CD)化されていたものなのだ。しかしこれらは、正当な権利を持たず、シェイ氏の知らないところでディスク化されていた海賊盤なのである。しかも、曲名・作者・パーソネル等は全くのいい加減で、しかも収録曲には編集が加えられている。このCDでは、ラウンダー盤に未収録であったジョニー・ヤング、ジョン・レンチャー、キャリー・ベル、モジョ・エレム、ジェームス・ブリュワー等の素晴らしい演奏が含まれている。 ジョン・レンチャーは、マックスウェル・ストリートを中心に活動をしていた片手のハーピストである。数少ない彼の録音は、どれも高いクォリティーを保っているが、私はこのディスクに収録された3曲がベストではないかと思っている。ディスクからも伝わってくるが、マックスウェル・ストリートに集まる聴衆を熱狂させていたのが手に取る様に分かる。「この場に居たかった!」と感じさせる瞬間だ。 ジョニー・ヤングは、60年代を中心に数多く録音を残しているものの過小評価に甘んじている一人である。彼は、数少ないマンドリン・プレイヤーとしても有名だが、ここではギターに専念している。しかし、なんと言っても彼のブルースの価値を高めている、深い味わいのあるボーカルを是非とも聴いていただきたい。 キャリー・ベルは、現在シカゴNo. 1ハーピストとして余りにも有名な存在だ。そんな彼の初録音がここに残されている。その場で即興で作ったインストが殆どだが、そのハーモニカのプレイには、ウォルター・ホートンの影響をうけた今日の彼のスタイルを垣間見る事ができる。また、ライナーの随所に出て来る彼の証言は、読む者を興奮させる貴重な話しだ。 また、このCDの価値を高めている物の一つに、おそらくブルースと同じ位演奏されていたであろうスピリチュアルが4曲収録されている事である。およそ無名な人たちが続くが、グイグイと盛り上がって行く様は、35年の時を経て自宅のステレオで聴いている私達をも興奮させる熱演だ。 最後にこのCDの「主役」でもあるロバート・ナイト・ホークについて一言触れたい。とは言うものの、彼については多くを語る必要はないであろう。戦前から活躍し、B.B.キング、アール・フッカーら多くのブルースマンに多大な影響を与えた偉大なブルースマンである。彼の、まるでスピーカーから滴り落ちて来るようなスライド・ギターのプレイに話題が集中しがちだが、彼の味わい深いボーカルにも是非耳を傾けていただきたい。 余談になるが、このCDに収録の[Disk 1]13.および[Disk 2]5.、[Disk 2]9.の3曲は、ナイト・ホークとは別人が演奏しているのではないか、という議論がある。実は言い出したのはこの私なのだが、チョーキングを多用したモダンなスタイルが、どうしても彼とは思えなかったのである。しかし、ギタリスト/ブルース研究家として有名なカブ・コーダ氏および64年頃にマックスウェル・ストリートに出入りしていたブルースファンのトム・ケイシー氏の証言によると、ナイト・ホークがこの様なスタイルで演奏していたのを何回も聴いたそうである。映像が残っていればこの様な謎はすぐに解決するのであろうが、35年も前の事なので決定的な証拠が出て来る事はまず不可能であろう。音を聴いて色々な想像を巡らす事は非常に楽しい事だが、ここは「戦前から活躍していた彼が、ただのオールド・タイマーではなく、時代を取り入れた演奏をも繰り広げていたという事実を楽しもう」というコーダ氏の意見に素直に従おう。 長々と書いてしまったが、このCDは少なくともレコードやヒット・チャートの上では「死の淵に瀕していた」ダウン・ホームなスタイルのブルースが、マックスウェル・ストリートの片隅ではまさに生き生きと脈動していた事を物語る貴重な記録である。いや、ブルースばかりではない。[Disk 1]の最後に収録された「吹き人知らず」のミュージシャンのパフォーマンスに、心を踊らせたのは私だけではないはずである。 この様に、64年当時のマックスウェル・ストリートの音楽、空気、臭いを全て詰め込んだこのCD。是非とも一家に1セットお持ちいただきたいと切に願う次第である。 江戸川スリム (7/15/99)
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Text by Masahiro Sumori unless otherwise noted. |